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第七十二話「道中」

『こっち、こっちよ♪』



ペタルに手を引っ張られ、前へ、前へと進むワタシ。

ただただ真っ直ぐに歩いていき、同じような景色の中を通り抜けていく。



「あの」


『んー?』


「一応、ここの出入りの仕方は教えていただいてますので、もう、手を引いて頂かなくても大丈夫ですよ」


『あぁ、それもそうね?じゃあ、手、離しちゃうわねん♪』


「えぇ…あの、ペタル」


『あらなぁに♪』


「…ありがとうございました」


『やーん、何の事かしらぁ♪あ、でもぉ、何かお礼してくれるっていうんなら、アーシ、カバンの中のキャンディが欲しいなぁ?』


「…ふふ、ではこの森を抜けたら、お渡ししますね」


『やったぁ♪』



他愛も無い話をし、前へ前へと進んでいく。


森の雰囲気は少しずつ変わり、いつの間にか坂道を下っていた時の事です。



『もうちょっとで外に出るわねん』


「はい、後はこの先の…?」


『?どうしたのよ』


「何か居ます」



前方、やや右側、視認出来るギリギリの位置。


群青色の何かが、ふわふわと浮いていました。



「妖精…いえ、魔物ですかね?」


『えー?何処よぉ?』


「まだ遠いので、少し見えにくいかと」



群青色の何かはどうやら少しずつ移動しているようで、ワタシ達の方へゆっくりと近づいているように見えました。



『んー…でも珍しいわねん?こんな所に迷いこむなんて』


「やはり珍しいですか?」


『まぁねん?たまーに何かの拍子に入ってきちゃう事はあるんだけどぉ、あんまり無いわねん』


「そうなんですね」


『んー…ま、アーシらの秘密の場所までは辿り着か無いでしょうし、ほっといても良いんじゃないかしら?』


「いやそれが、ワタシ達が進む方から来ていまして…」



そうこうしている内に、群青色の何かは更に近づいてきており、その姿形の詳細がわかるようになってきました。



体は小さいイノシシ程の大きさ。

全体的に丸い形をしており、太く短い手足と細く短い尻尾、そして鼻と思わしき長い触手のような器官が三本生えていました。

体の側面にはコウモリに似た大きな翼が付いていましたが、バサバサと羽ばたいているわけでは無く、ゆらりゆらりと上下に揺らしているだけのような、そんな印象を受けました。

左右に二つづつ付いた山羊のような黄色い目は、じっとりとこちらを見据えていました。



『ねぇー?見つかんないんだけどぉ?』


「?まだ見えませんか?」



とっくに視認出来る距離。

なのにペタルの目には、まだ見えていないようでした。



『本当に居る?見間違いじゃなぁい?』



その間にも群青色の生き物はゆっくり、ゆっくりと近いてくる。


三本の長い鼻を動かし、こちらにゆるゆると伸ばしてきている。


これだけ近づかれているのに、まだ見えない…?



『やっぱり居ないじゃないのよぉ?』



まだ、見えない。


もう鼻がこちらに触れようとしているにも関わらず、まだ。


ワタシはそこで、はたと気づきます。



何故ワタシはこんなにも、警戒していない(・・・・・・・)のだと。



『ねぇ?聞いてる?』



マズイ。



スパァンッ‼︎

『キャアッ⁉︎』



瞬間、吹き出る汗、湧き立つ焦り。


体中を駆け巡る危険視号に従い、勢い良くナイフを振り抜いたワタシはその勢いのままペタルを引っ掴み、跳躍。


後方に跳んで、距離を取りました。



『ちょっと!急に何すん』

「イ゛イ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ‼︎」



一瞬の間を置き、悲鳴をあげる群青色の魔物。


その悲鳴をキッカケに、ようやく認識出来るようになったのでしょう。ペタルの顔はみるみる青ざめていきました。



『ウソ、ウソウソウソウソウソッ⁈ヤダッ⁈最悪ッ‼︎』



そう捲し立てるように言い、恐怖と焦りが混ざったような表情を浮かべるペタル。



『なんでこんな所に“妖精喰い”が居んのよっ‼︎』



その声を合図に、先程とは比べものにならない猛烈な勢いで、“妖精喰い”はワタシ達に接近してきました。


戦闘、開始です。


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