第六十七話「生きている」
死んでいない筈が無い。
バタバタバタバタッ、ガチャッ、バンッ‼︎
ワタシはあの時、確かに自分の死期を察していた。
察していた筈だったのです。
それが一体、どういう事でしょう。
死の予感はすっかりと消え失せ、身体は健康そのもの。
それどころか、礼拝堂に来る前よりも調子が良いような気すらしました。
『なんじゃあ、慌ただしいのぉ』
『おぉ、キミドリか。裏の畑から野菜、貰っとるよ』
『あと土産は台所に置いといたからの』
衣食住が整った環境で過ごしてきた為か。
あるいは別の要因か。
何にせよ、ワタシは生きている。
「ミッさん、メェさん、ネムッさん」
思い浮かぶのは、ニヤついた表情の彼女の顔。
「ペタル、見ませんでしたか」
問わなければと思いました。
何故、こうなっているのかを。
『ペタルゥ?そういえば今日はまだ見とらんのぉ』
『まぁまた何処かで昼寝でもしとるんじゃろ』
『少なくとも、畑にはおらんかったよ』
「そうですか…」
肩を落とすワタシに、メェさんが首を傾げて言いました。
『なぁキミドリよ。お前さんなら場所がわかるんじゃないかの?』
「そん」
そんな事は無い、と、否定しようとして、ワタシはようやく思い出します。
名付けによる繋がりで、居場所の特定が出来る事を。
「あ」
『お前さんなぁ…』
「すいません、使う機会も無かったもので、すっかり忘れて…では、失礼します」
『まぁ待て待て待て』
動きながら気配を探ろうとして、その場を離れようとしたところ、ネムッさんに呼び止められました。
『何をそんなに慌てとるんか知らんが、一旦落ちついたらどうじゃ』
「しかし」
『慌てとったら解決するもんも解決せんよ。どれ、ここは一つ、話を聞かせてはくれんかの?』
『その様子じゃと、ただイタズラされたんじゃないんじゃろ。ワシらで良ければ力になるぞい』
「…そう、ですね。ありがとうございます」
『で、何があったんじゃ?』
「実は…」
ノームの三人に促され、ワタシは、状況の説明を始めました。
「…と、いうわけでして」
『『『…』』』
「あの」
『お前さん、何というか』
『鈍いのぉ』
『そういう事じゃったら、もっと早く気づけたろうに』
「おっしゃるとおりで…」
『ちと抜けとるところがあるとは思っとったが、ここまでとはのぉ』
「その…昔から何かに気を取られていると、他の何かに気づけなくなる性質のようでして…」
『に、したってのぉ』
『長すぎじゃあ』
『はよ治した方がええなぁ、その癖』
「全くその通りで…」
呆れた様子の三人に、返す言葉も無いワタシ。
いや、本当に、悪い癖だとはわかっているんですけどねぇ…。
『しかしお前さん、本当になんも知らんと来たんじゃなぁ』
『そういえば、最初は妖精の事も何も知らんかったしのぉ』
「…何か知ってるんですね?」
『知ってるも何もなぉ』
『まずお前さん、“妖精界”についてはどれくらい知っとるかの?』
「“妖精界”…確か、ワタシ達の住む世界の裏側にある、妖精達の住まう世界の事、でしたかね」
『まぁそんだけ分かっとったら十分じゃ』
『ここはの、その“妖精界”に片足突っ込んどる場所なんじゃよ』
「…なるほど?」
『あー…詳しい説明は省くがの、そういう半端な場所はな、“時空間”が歪みやすいんじゃよ』
『ここの場合はなぁ、“空間”もちとおかしいが、それよりも“時間”じゃな』
「…と、いいますと?」
『んーそうじゃな…お前さん、ここに来てどれくらい経つかの?』
「えっと…それぞれの季節を十回は過ぎたかと」
『“外の世界”ではまだ二回じゃ』
「…はい?」
『“外の世界”では、まだ、二回じゃ』
耳を疑うその言葉に、ワタシは暫し思考を停止しました。
来週はお休み。




