第五十九話「ノームによる特別授業」
さて。
まず始めに、彼らノームから教えてもらった、“精霊““妖精“についての説明を軽くしておきましょうか。
“精霊“とは。
自然界、妖精界に存在する魂、霊魂の総称です。
超自然的存在や、自然そのものの化身とも言われ、実体はありません。
“邪気“を嫌い、“清浄な気“と魔力を好む為か、自然豊かで魔力の豊富な森などに集まりやすく、生まれやすいそうです。
姿形を持ち合わせていないので、特殊な方法、才能、技能などが無ければ目で見る事も叶わず、自我が薄い為に会話を試みるのも難しいとの事です。
では“妖精“とは。
一言で言えば、実体を持った“精霊“です。
ハッキリとした自我が有り、触れる事も可能ではありますが、あくまでも“物質に寄った“だけであり本質は“精霊“と変わらない為、触れるのはもとより、見聞きするのも容易ではありません。
生まれ方は様々ですが、基本的には、何らかの経緯で姿形を得た時に、“妖精“となるそうです。
“精霊“という枠の中に“妖精“も入っている、とも言えますかね。
『風になぞられ、縁取られる者。
水に揺蕩い、浮かび上がる者。
火に炙られ、焦がす身を得る者。
土に閉ざされ、象られる者。
光に照らされ、目覚める者。
闇に包まれ、影を纏う者。
ワシら妖精はな、そうやって生まれるんじゃよ』
「なるほど」
『まぁそうやって呼び分け始めたのはワシらではなくて、人間なんじゃがのぉ。分かりやすいからワシらも使っとるんじゃよ』
『分けて名を付けるのは人間の方が得意じゃからの。ワシら妖精は、そこに“あるがまま“にする方が圧倒的に多いもんでな。そういうのは苦手みたいでの』
彼らによれば、大地の妖精“ノーム“を始め、水の妖精“ウンディーネ“、風の妖精“シルフ“、火の妖精“サラマンダー“などの名を付けたのも人間なんだそうです。
と、いったところまでが“精霊““妖精“に関する大まかな説明でした。
『さて、と』
ミッさんがそう呟くと、ミッさんを含めた三人のノームは少し真剣な表情をして、こちらに向き直りました。
ここより先は、少しだけ真面目なお話です。
『お前さん、ここまでは理解したかの?』
「はい、わかったと、おもいます」
『よろしい、では話すとするかの。ワシら妖精が何故、魔物と呼ばれたがらんかを』
「…じゃきを、きらうから、では?」
『うむ、そうじゃな。それもあるが、それだけでは無い』
『真相はもう少し、根が深いんじゃよ』
「なる、ほど」
『お前さん、魔物がどのようにして生まれるか、知っとるか?』
「…どうぶつや、しょくぶつ、と、だいたいおなじ」
『うむ。そういう奴らもおるな』
『いわゆる“種族としての魔物“、あるいは“先天的な魔物“というやつじゃな』
『じゃが、そやつらの祖先も初めから魔物であったわけではない』
「…あとから、まものに、なるますか」
『そうじゃ。そういう奴らはの、自らの負の感情に呑まれ、辺りの邪気を取り込み、魔力が暴走し、“後天的な魔物“となる』
『“魔物化“とも言うの』
「まものか…」
『確率は低いがの。ほとんどはそのままお陀仏じゃ』
『そういった事はどの種族にも起こりうる。例えば虫、魚、動物、人間…ワシら妖精も例外では無い』
「…」
『邪気を嫌う妖精が、邪気の塊のような魔物に“成る“。…ワシらにとって、これほど不名誉な事は無い』
『そういう“成った“者の事をな、ワシらは“堕ち者“と呼ぶんじゃよ』
「おちもの…?」
『“邪気に堕ちた愚か者“、という意味合いになるかの』
『その“堕ち者“の中でも、どうやってかは分からんが、ほぼ完全に“物質化“した者達もおる』
『繁殖し、増える能力を身に付けたという事じゃ』
「…」
『有名どころで言えば、そうじゃの、例えばオーガ、例えばインプ、例えばドレインツリー、例えば、
ゴブリン』
「!」
『そう、お前さんじゃよ。“堕ちた同胞“よ』
『もののついでじゃ、ワシらの知る限りで、ゴブリンについても教えておいてやろう』
ノームの三人は、ゴブリンについて、話し始めました。




