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第五話「人間」

ワタシのいたゴブリンの村は、どうやら森のとても深い所にあったようで、人間を見かけた事は一度もありませんでした。


あったとしても人間のいた痕跡を見かけるくらいで、何かしらの武器や道具がポツンと森の中に落ちているだけでした。


まぁもしかすると、ワタシが先輩ゴブリン達と森の更に深い所でしか狩りをしてこなかっただけで、他のゴブリン達は森の浅い所へ(おもむ)いて人間を襲っていたのかもしれませんけどね。


村のゴブリン達が毛皮だけで無く、ボロ布を纏っていたのはそれが理由かもしれません。



…となると、ワタシが狩りに出かけて村にいない間に、人間の肉が持ち込まれて…いえ、これ以上考えるのは辞めておきましょう。



まぁそういう訳だったので初めて人間を見た時は、奇妙な動物がいるな、としか思わなかったんですよね。


しかしよくよく観察してみれば、その奇妙な動物がただの動物ではないとすぐに分かりました。



体を覆う頑丈そうな鎧、破れや汚れの少ない服、(さび)一つ浮いていない武器、使い方も分からない謎の道具。


アレは一体なんだ?


ワタシは彼らに興味を惹かれました。


更によく観察する為に、ワタシはさっそく自身に“認識阻害”の魔法をかけ、気付かれぬようにゆっくりと彼らに近づきました。


幸いだったのはおそらく彼らが“駆け出しの冒険者”で、ワタシに気付くだけの技量を持ち合わせていなかった、という事です。


因みに彼らは、タンク、剣士、魔法使いの三人組で、比較的バランスの良いパーティのように見えました。



観察し始めしばらく経った頃、

彼らに向かって何かが飛び出していきました。



飛び出してきたのは大きなネズミ。

赤い瞳をランランと輝かせ、すぐにでも前歯を突き立てようとするその凶暴性は、魔物のそれに違いありませんでした。



「@☆¥%○〆!」



魔法使いが何かを叫ぶと、彼らの前に薄い透明の(まく)が現れました。



「ヂッ‼︎」



ネズミの魔物が透明の膜に弾かれ地面に着地すると、冒険者の彼らを囲むように、まわりの草むらからガサガサと音が鳴りました。


現れたのは四匹のネズミの魔物。

おそらく最初の一匹の仲間でしょう。



合計五匹の魔物を前にして、彼らは声をかけあい各々の武器を構え、戦闘体勢へと入りました。



次々と飛び交い、我先に(かじ)り付こうとするネズミの魔物達。


攻撃を受け切り引きつけるタンク。

剣で切りつけ薙ぎ払う剣士。

守られながらも何かを呟き続ける魔法使い。


彼らの連携は当時のワタシからすると、とても素晴らしいものに見えました。


そうしている間に、残るネズミはあと二匹。



「$*@€○#+!」



呟き終え再び何かを叫んだ魔法使いの杖の先には、大きな水の玉。


水の玉は残った二匹の魔物を器用に捉え、水の中に閉じ込めてしまいました。


ネズミの魔物も生き物ですから、もちろん息が出来ません。


水の外へ出ようともがき、暴れているようではありましたが、奮闘虚しく、溺れてしまいました。



戦闘終了です。


五分とかからず全てを倒し終えた彼らは、互いに喜び合い、また声をかけあいます。


そんな彼らを眺めながら、ワタシは思うのです。



アレは一体、何と言って鳴いているのだろう、と。



ゴブリンの場合、それなりに鳴き合えばそれとなく意思が伝わっていたものですから、彼らが何か明確に鳴き声を使い分け魔法さえ扱う姿に、疑問を持ったのです。



今のワタシが思うにきっと、ゴブリンは限定的な“念話”の魔法を声に乗せ、無意識に使っていたのでしょうねぇ。



まぁそれはそれとして、ワタシはこの時初めて“言葉”という概念に触れたのです。


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