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第五十四話「大掃除」

『ねぇ?まだ終わんないのぉ?』


「ゼンゼン、オワラナックショイッ‼︎ヘップショイッ‼︎」


『やっだ鼻水出てるぅ、めっちゃマヌケ〜』



妖精さんの誘いに乗って、白い寂れた建物に連れてこられ、そこに住まうと意志を固めたその翌日。


ワタシは、建物内の大掃除をしていました。



ええ、しますよ。掃除くらい。


しばらく使われた形跡が無いだけあって、色んな所に埃が積もっていましたからねぇ。


歩くたびに埃が舞い上がってくるものですから、鼻がもう(くすぐ)ったくて(くすぐ)ったくて…鼻が大きいからでしょうか。


まぁそんな訳ですから、ワタシは窓という窓を開け放ち、建物内の埃を一掃する事にしたのです。


掃除のやり方自体はツキノ村で多少学んでいましたので、実践してみるには丁度良い機会でした。


掃除道具一式は、建物の裏手にある物置らしき小屋の中で見つけたので、それを拝借する事にしました。



しかしまぁ以前にも言いましたが、見るのとやるのとでは、本当に勝手が違いますよねぇ。


ただ埃を払うにしても、上から順番に払っていかなければ二度手間になってしまうだなんて、やってみてから気づきました。


少し考えれば分かる事なのですけどねぇ。


案外気が付かないものです。



洞窟暮らしをしていた頃は、本さえ汚れなければそれで問題ありませんでしたから、あまりちゃんとした掃除はしてこなかったんですよねぇ。


したとしても荷物の上の砂を払うだとか、邪魔な物を処分したりだとか、そういった簡単な事しかしてきませんでした。


あと埃ほど舞い上がったりしませんでしたからね、土は。



そうして苦戦しつつ、建物内の部屋という部屋を隅々まで掃除していくと、少し面白い事が分かりました。


白い寂れた建物、礼拝堂に、元々住んでいた人物についてです。



元々住んでいた人物はおそらく、魔法使い。


それもかなり高位の魔法使いだと、ワタシは予想します。



礼拝堂に入った時から薄らと気配は感じていたですが、建物内のいたる所に、魔法がかかっていたのです。


分かりやすかったのは、台所でしたかね。


例えば、

中の物を冷やす魔法がかかった箱。

常に淡く光っているランプ。

錆が一切浮いていない刃物。

食料が腐らない棚、など。


どれもこれも常時発動、定着型の魔法がかかっており、一切の劣化を感じませんでした。



定着型の魔法は、名の通り、物に“定着”して魔法の効果を長期間 持続させる“型”の事を指します。


他のタイプの魔法でも、魔力を多く流しこんでおく事で無理やり長く持続させる事は出来ますが、それでも、最長で一日程度しか保ちません。


それが定着型であれば短くとも数日、長ければ数年は保ちます。


必要な時にのみ発動するような“随時発動型”の魔法であれば、更に長い。



しかし反面、発動するのに多くの魔力が必要となります。


常時発動および定着型の魔法ならば、瞬間的に発動する魔法と比べて、最低でも二倍は必要になるでしょうか。


効果時間が長くなるにつれ、必要な魔力量は更に増えていき、同じように魔力操作の難易度も上がっていきます。


その定着型の魔法の効果も一定では無く、通常ならば、徐々に効果は落ちていき、最終的には三分の一程度しか力を発揮しなくなります。


本当はもっと詳しく分類できたり、例外があったりするのですが…その辺の話は長くなるのでやめておきますね。



そんな魔法が、おそらく数年は放置されているであろう建物の中で、全く劣化する事なく、発動し続けていたわけです。


当時のワタシにはもちろん、そこまでの知識があったわけではありませんが、魔法を扱う者として、それがどれだけ凄い事なのかは、感覚的に分かりました。



隠居生活をしていた大魔法使いでもいたのか、それともとんでもない力量の魔導師の別荘か…そこまでは、ワタシの知る由もありません。


しかし、あれだけ沢山の本があった理由が、少しは分かったような気がしました。



さて、そんなこんなで数日後。


ワタシはようやく礼拝堂の大掃除を終え、そこでの生活に本腰を入れ始めたのです。



あぁそれと、ワタシはその日をさかいに、毎日少しずつ掃除をする習慣をつけました。


いやぁ、大変でしたからねぇ。大掃除。


毎日少しずつする方が、まだマシというものです。


…いや本当、大変でしたからね。大掃除。


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