表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/196

第五十三話「書斎」

扉を開いた先にあったのは、沢山の本、本、本。


ざっと見渡しただけでも、絵本、小説、専門書などを含め、様々な分野、種類の本が、所狭しと並んでいました。


驚きのあまり、絶句。


妖精さんから“いっぱいある”とは聞いていたものの、まさか壁一面にビッシリと本が並んでいるだなんて、想像もしていなかったのです。



『どーお?気に入った?驚いた?』


「…エエ、トテモ」


『そーでしょー!ウフフ、その顔が見たかったの♪』


「…コンナニ、タクサン、アルナンテ」


『読みたい?読みたいわよね?これぜーんぶ読み終わるまで、ずーっとここに居ても良いのよ?』


「コレ、ゼンブ?」


『そ!ぜーんぶ!』


「…ズット?」


『そう!ずーっと!』



“ずっと”。


それはワタシにとって、とても魅力的な言葉でした。



百冊や二百冊なんてものではありませんでしたからね。


千冊や二千冊は優に越えるであろう量でしたから、一日一冊読めたとしても、数年はかかるであろうと容易く予想出来ました。


ましてや、しっかりと理解しながらとなれば、尚更です。


ですから、全て読み終わるまで、ずっと留まっても良いというのは、本当に有難い申し出でした。



ですが、ワタシには分かっていました。


ワタシがここにある本を全て読み切るのは、おそらく不可能(・・・)であると。



ゴブリンの寿命は、約十年(・・・)


どれだけ長生きしたとしても、二十年(・・・)



その二十年というのも“(キング)”と呼ばれる、とても大きな群れの特殊個体が、長生きした場合の寿命です。


普通のゴブリンが変異した“ホブゴブリン”や、そこから更に変異して、力に特化した“ウォリアー”、魔力に特化した“ウィザード”と呼ばれる個体の寿命は、せいぜい十五年前後とされています。



そして群れから離れ、“はぐれ”と呼ばれるようになったゴブリンの寿命は、もっと短い。


ゴブリンは本来、群れで生活する魔物ですからね。


運良く生きる術を身に付けたとしても、体にかかる負担は、相当な物となってしまうのです。


ワタシのように、様々な場所を旅して来たのであれば、尚の事。



もってあと数年。


それがワタシの寿命でした。


ワタシの薄い本能が、そう告げていたのです。



もし、妖精さんの申し出を受けるのであれば、ワタシはそこに、骨を埋める覚悟をしなければなりませんでした。



それは、外の世界との別れ。


それは外の世界にある、あらゆる物との別れを意味していました。



さびしい。


そう思う一方で、ワタシは少し安堵していました。


ワタシがそこに引き籠ってさえいれば、未練たらしくも、人間との関わりを持たずに済むからです。



人間の情報が欲しければ、本を読んでおけば良い。



それはワタシの好奇心を満たしつつ、自身に課した決め事を守るのには、とても都合が良かったのです。



ですから、


ワタシの心は決まっていました。



「ヨロシク、デス」


『こちらこそ!これから楽しくなりそうね♪ウフフフフッ』



こうしてワタシは妖精さんと共に、その寂れた白い建物で、長い時を過ごす事になったのです。



実質(・・)、ですけどね。



今になって思います。


この時に、ワタシがいたその“場所”について、妖精さんにもっと詳しく聞いておけば良かったと。


投稿を始めて約一年が経ちました。

今後も細々と書いていきますので、気が向いた時にでも読んで頂ければ幸いです。

どうぞこれからも、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ