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第四十八話「噂」

見られた。


気づいて反射的に振り返った時にはもう遅く、うつ伏せで倒れていた筈の剣士は頭を持ち上げてこちらに顔を向けており、バッチリと目が合ってしまいました。


幸い、フードや口布などの装備と、顔にかけている“暗がり”と“幻覚”の魔法は外していなかったので、一先(ひとま)ず魔物だとはバレずに済みました。



しかし、状況が状況です。



剣士の目から見て、ワタシは一体どのように映るでしょうか?


全身を布で覆い尽くして顔すら分からず、

袖に隠れて見えない手を仲間に向かって伸ばしており、

声をかけれてみれば、驚いたような素振りで振り返った。



怪しい。


あまりにも怪しい。



正直、盗人か死体漁りの類いだと思われても仕方の無い程でした。


出来れば即座に逃げ出してしまいたいところでしたが、ただの盗人と勘違いされるならいざ知らず、もしも盗賊か何かだと思われでもしたら、後々、面倒な事になりかねません。


沢山の冒険者が派遣されて盗賊討伐に動き出す、なんて事態にはならないでしょうが、依頼のついでに探される、といった可能性は、無いとは言い切れませんでしたからねぇ。


考えうる可能性は、出来るだけ潰しておきたかったのです。



ですから、ワタシがするべき行動は二つ。


まずは一つ目。



「な…なぁ」

「イタミ、ハ、ナイカ?」


「え?あ、あぁ…どこも痛く無いな…」


「ソウカ、ナラ、ヨカッタ」


「…あんたが治してくれたんだろ?仲間の事もさ。さっき魔法か何か使ってたし」


「アァ、ツカッタ」


「やっぱりな。ありがとう、助かった」


「イイ、タダノ、オウキュウテアテ、デス」



こちらに悪意が無いと示す事。



これに関しては、ワタシが弓士の治療をしていたところを剣士が一部始終見ていたようなので、いらない勘違いをされずに済んで助かりました。


次いで二つ目。



「あのさ、ついでに聞きたい事が」

「ダメ」


「え」


「サキヲ、イソグ、デハ、シツレイ、スル」


「え?ちょ…ま…」



面倒が増えない内に、さっさとその場を去る事。



気絶した人間達を治療していたのは、あくまでも魔術の練習の為。


トニックさん達の時とは違い、本来は会話を交わす必要も無いのです。



そういうわけで、ワタシは会話を無理やり断ち切って、そそくさと足速に元来た道へと戻り始めました。


弓士から離れ、魔法使いの横を通り過ぎ、剣士の前を通り抜け、彼らからある程度の距離をとれた、その時。


剣士が叫びました。



「あんた!“幽霊”だろ⁈」


「…ユウレイ?」



彼が、ワタシの事を“幽霊”と呼んだのです。



「そう!あんた“シェブナの森の幽霊”なんだろ⁉︎」



まさか、人間では無いとバレていた?


そんな考えが頭によぎり、ワタシは思わず足を止めてしまいました。


まさかとは思いつつ、ワタシはとりあえずの返事をして、彼の話を少し聞いてみる事にしました。



「シンデナイ」


「いや、そうじゃなくて!あんた、この森で何人も助けてるよな⁈“シェブナの森には茶色いローブの幽霊が住んでる”って噂、本当だったんだなっ!」


「…ウワサ?」


「そう!“木漏れ日から現れて気まぐれに助けてくれる”って、皆言ってる!姿を見たって奴もいっぱいいる!」


「イッパイ…」


「なぁ!ドレインツリーがへし折れてたのだって、原因不明とか言われてるけどさ!本当はあんたがやったんだろ⁉︎」


「…」



驚きましたよ。


まさか噂になる程人間に見られていたなんて、思いませんでしたからねぇ。


“木漏れ日の中から現れる”というのは、おそらくワタシが使っている“認識阻害”の性質によるものでしょうね。


なんせ“闇属性”ですから、よく晴れた日の木漏れ日の中で、うっすらと見えてしまっていたのだと思います。


…それと、たまに“認識阻害”をかけずに森に出てしまっていたのも拙かったのしょうねぇ。


魔術を失敗した時に魔力をゴッソリ持っていかれる事があるので、少しでも節約しておきたくて、その、つい…本当、油断が過ぎました。



「俺もだけどさ!皆感謝してんだよ!…よ、良かったらさ!」


「モウスグ、タビニ、デル」


「え?」


「ダカラ、ウワサ、ハ、ワスレテ」


「な、あ、えっ?ちょっ…⁉︎」



“認識阻害”を自身にかけ、ワタシは住処に向けて走り出しました。


少しくらい怪しいと思われても構いませんでした。



もう、そこには居られないのですから。



人間の間で噂になり、ワタシの存在が多くに知られてしまった以上、そこに居座る事は出来ませんでした。


ワタシは、人間には必要以上には近づかないと、そう決めていましたからね。


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