第四十六話「討伐後の日々」
『やぁだぁ、このドライフルーツおいしー♡』
あの出来事から数日が経った頃。
ワタシの体は随分と良くなり、完全に、では無いにしても、日常生活を送るのに問題が無い程度には回復していました。
傷は治り切ったわけではありませんでしたが、幸い骨を折るなどの大怪我は免れていたようで、動くのに支障をきたす程痛む怪我もありませんでした。
いやまぁ貫かれたには貫かれたんですけどね。
ワタシも魔物の端くれですから、傷の治りは他の生き物よりも早いのです。
『なんかぁ、人間が売ってるやつより美味しくない?アンタこーいう才能あんのねー』
ただ、万全の状態でもありませんでしたからね。
狩りの為に山や森を走り回るのは辞め、住処からあまり離れていない場所から果実を取ってきては、非常食としてドライフルーツに加工するなどして朝の時間を過ごしていました。
『そっちのも貰っちゃおっと♪』
で、ワタシがせっせと果物を薄切りにしている傍らで、作り置きしておいた非常食をつまみ食いをしているのは、
『あっやだコレ酸っぱい』
「…ナンデ、イル、マスカ?」
えぇ、その通り。
あの妖精さんです。
あの口振りからして、しばらく会う事も無さそうだと思い込んでいたのですが、どういうわけか、或いはどうやってかワタシの住処を見つけ出して、唐突にワタシの前に現れたのです。
まさかほんの数日で再会する事になるとは…全くの予想外でしたよねぇ…。
「ウワサ、ヒロメル、チガイマシタカ?」
『あ〜アレね。広めた広めた。風の子にも話したから、多分もっと広まると思うわ』
「ソンナニ…イヤ、デハ、ナゼ、ココニイル?」
『え〜?なんとなくぅ?』
「…」
…彼女がとても気分屋だというのは、この時に理解しました。
『ん〜まぁなんていうかぁ、アーシ、暇なのよねん。冬だから冬眠しても良いんだけどぉ、なんか気分じゃないしぃ?アンタんとこにいた方がまだ面白い事あるかなーって』
「…ソ、デスカ」
どうも彼女は常に面白い物事を求めているようで、彼方此方と飛び回っては、何か無いかと探し回っていたんだそうです。
ワタシの住処にやって来たのもその一環のようで、この日を境に、度々住処に遊びに来るようになりました。
詰まるところ、暇潰しという事ですね。
主な理由はドライフルーツのつまみ食いだと思いますけど。
『てか、アンタそれ何してんの?』
「クダモノ、キッテル」
『じゃなくて、その横のやつよぉ。何その鍋?』
「スープ、ツクッテル」
『ふーん?それも人間の真似?』
「ソウ、デス」
まぁそんなわけで、魔樹の討伐も成功し、森の中を歩く人間の数は一気に減り、ワタシの平穏な洞窟生活は戻ってきたわけです。
『なんか変わった匂いね。おいしいの?』
「イマカラ、アジミ」
『あら、じゃあアーシも頂こうかしら』
しかし不思議な事に、その後も時々ではありますが、人間が森の中に落ちている事がありました。
それも、ワタシの住処がある山の近くでばかり。




