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第四十三話「第二ラウンド」

()ける、()ける、躱す、躱せない。

受ける、流す、逸らす、逸らせない。

走る、しゃがむ、跳ぶ、跳べない。

刺す、切る、蹴る、当たらない。


ワタシに向かい伸びてくる根から(のが)れる為、身を(よじ)り、(ひるがえ)し、隙を探す。


しかし体力が、魔力が、精神力が追いつかず、ナイフのキレは落ちていき、足の踏ん張りは効かず、疲れのせいで思考は曇っていく。


そんな状況で魔力切れを起こすわけにもいかず、魔法を使う事も出来ない。



幼木から繰り出される攻撃は、成木(せいぼく)に比べて鋭さに欠ける。


正確さも、威力も、速さにも劣る。



しかしそれでも、躱せない。



辺りに充満する生命力に惑わされ、(くう)を掴み、空振っているにも関わらず。


“獲物”を奪い合い、連携が取れず、互いの攻撃を(はば)み合っているにも関わらず。



躱しきれない。


防ぎきれない。


逃げられない。



ワタシは幼木によるその圧倒的な攻撃の手数に、飲まれかけていました。



当時のワタシも、複数の場所に魔樹がいる可能性を考えてはいました。


ですが、まさか複数の魔樹が歩き回っているとは、思いもしなかったのです。


ましてや魔樹の幼木達が、ワタシが森で撒き散らした生命力を辿って広場まで嗅ぎつけてくるだなんて、思いつきようがありません。


あの移動速度の遅さを考えれば、ワタシが森の中を走り回っている時にはもう、動き出していたのでしょうねぇ。


あぁそういえば、魔樹を探し回っている時に、何かよく分からない物が“探知”に引っかかっていましたねぇ。


あの時にもっとしっかりと確認しておけば、あのような窮地には陥らずに済んだのかもしれませんが…まぁ、後悔先に立たず、というやつです。



しかし、それで納得しました。


人間が(まばら)な場所で倒れていた理由も、被害が一向に減らなかった理由も、成木が周りの木からも栄養を奪っているのに、妙に萎びた感触がした理由も。


人間が疎な場所で倒れていたのは、幼木が歩き回り、様々な場所で人間を襲っていたから。


被害が一向に減らなかったのは、幼木そのものが増え続けていた上に、歩き回るせいで場所の特定が難しかったから。


成木が妙に萎びていたのは、大量に種を生み出して幼木を増やし続けていたから。



そう思えば、ワタシが対峙した幼木の群れは、大分減った方だったのかもしれません。


他の動物や魔物が魔樹を狩る事もあるでしょうが、冒険者がかなりの数の魔樹を討伐した筈ですから。


もしあの時に、冒険者が森に入ってきていなけば…きっと、もっと大変な事になっていた事でしょうね。



さて、リス程度の大きさの物から人間の成人程の大きさの物まで、全て合わせて五十は下らない魔樹の群れ。


広場に(ひしめ)く幼木達による絶え間無い猛攻は、ワタシの首を徐々に締めていきました。



普段であれば、それだけの数と敵対したとしても、隙を見て広場から逃げ出せていた事でしょう。


しかし前述したとおり、状況が悪い。

加えて、相手が魔樹である為に目眩しでは逃げられない。


更に言えば、魔樹の幼木は成人に比べ回復速度が異常に早い。


伸びてくる根をいくら切り落としても、切った端から生えてきてしまうのです。


若さ(ゆえ)の回復力か、力の配分も分かっていない青さなのか…どちらにしても、厄介な事には変わりありません。



ハッキリ言ってワタシはもう、ほとん(ほとん)ど詰みの状態でした。



意識が朦朧(もうろう)としてきており、どのくらい時が経過したのかさえ分からない。


手に力は入らず、上手く攻撃が当たらない。


魔法は一切使えない。


そんな状態で、真面(まとも)に戦闘など出来よう筈がありません。



それでもなんとか食らいつき、生き延びる手段を探しました。


その内に、バキリと音を立て、四本目のナイフが折れました。


残るナイフは、あと一つ。



マズイ。



ワタシは折れたナイフをすぐさま手放し、最後のナイフを取り出しました。


その一瞬、ワタシはナイフに気を取られてしまったのです。


ほんの一瞬の油断でした。



ワタシが頭上の影に気づた頃にはもう、


多量の根が降り下ろされた後でした。


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