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第四十一話「小さな人」

「…コエ?」



森の中、広場の内側、聳え立つ根の根元、転がる玉の中。

そんな所から声がするとは思ってもいませんでした。


それもただの声では無く“言葉”。

頭の中に響く上に何故か声の発生源も分かる。


あまりに想定外、あまりに予想の外側。


ワタシは思わず小さく声を漏らしました。

たった一言、小さく“コエ”と発しただけ。


ただそれだけの筈なのに、



『!…声?人間の言葉?そこに誰かいるのね?』



聞き取れる筈も無い距離から、言葉が返ってきたのです。

しかもたった一言で人間の言葉だと理解している。



ただの動物では無い。

しかし絶対に人間では無い。

だが魔物にしては敵意が無さ過ぎる。



目の前に居るのは何だ?



長らく旅をしていましたがらそのような経験はそれまでに一度も無く、予想だにしていない事が一度に起こり過ぎた為か、ワタシは混乱してしまいました。



『じゃあ、今地面の上に居るのね?やぁだぁアーシってば幸運ねっ!幸運ついでにアンタちょっと手伝ってくれない?これ硬くて出るの大変そうなのよ』



そんなワタシを余所に言葉を続ける声の主。



『お礼もするから、おねがい♡』


「…ワカッタ」


『イヤンそうこなくっちゃっ』



混乱はしているものの玉の正体が気になるのも事実。


思考が追いつかないばかりに、ワタシはあまり考えずに了承してしまいました。


疲れていたのもありますが、敵意を感じ無かったのもあり気が緩んでいたのでしょうね。



ワタシはゆっくりと玉に近づいていきました。


玉は少し大きめの果実程度で、片手でも持てそうな大きさでした。



『あっここ隙間が出来てる。だから声が聞こえたのねん。ねぇ、ここに指突っ込んだら剥がせるんじゃないかしら』



玉を持ち上げて見れば、確かに表面には僅かな隙間が出来ており、中がほんの少しだけ見えていました。



「…ヤッテミル」


『おねがいねっ』



声の主に促されるまま、ワタシは隙間に両親指をねじ込み、中身を傷つけぬよう気をつけて、グッと力をいれました。



ミシッ…ギチッ…



音を立て徐々に割れていく玉。



『その調子その調…子?…人間の気配じゃな…⁈ちょっ、ちょっと‼︎待ちなさ』



メリメリメリメリッ‼︎



引きちぎられ、二つに割れる玉。

中からは色とりどりの花弁が溢れ、こぼれ落ちました。



『うそっ⁈やだっ⁈アンタ、ゴブリンじゃないっ⁈やだっ‼︎穢らわしいっ‼︎あっち行って‼︎』



花弁の真ん中に縮こまるように座っていたのは、羽の生えた小さな人型の何か。


全体的にほんのりと薄く光り、目は黒い水晶の様に真っ黒。人間でいう髪に当たる部分には白を基調とした花弁が生え、耳は尖り、手には指が四つ、足の先には指らしき物は見当たりませんでした。



人間の姿に似た人間では無い何か。



人間に似ている?人間の一種?いやおそらく違う。感覚的には魔物の方に近い。いやしかし魔物でも無い気が…虫?



疲れのせいか、混沌を極める思考。

固まる体とは裏腹に溢れ出て止まらない疑問。



混乱し、面食らい、何も(まと)まらない。



じっと見つめ続ける間にも、小さな何かはワタシに敵意を向け緩く暴れていました。


よく見てみれば威勢の割には体に力は入っておらず、羽の内の一枚には破れがあり、少し寄れていました。


おそらく衰弱していたのでしょう。

声に勢いはありましたが、虚勢だったのかもしれません。


それを見てふと、混沌とした思考の中でも、少し毛色の違う疑問が浮かんできました。



この生き物にも魔術は効くのだろうか、と。



えぇそうです。

例にもよって好奇心が、試してみたいという欲が、顔を出してしまったのです。


目の前にある物事に、脳の処理が追いつかなかったせいかもしれませんねぇ。


ワタシは最後に浮かんだその考えを、直ぐに実行に移しました。



『いやっ‼︎離してっ‼︎触らないでっ‼︎』



小さな生き物は抵抗しワタシの手から逃れようとしましたが、呆気なく羽を(つま)めてしまいました。


寄れた羽を軽く伸ばし、軽く摘んで破れを塞ぐワタシ。


羽を千切られると思ったのでしょう。

イヤイヤと首を振り、涙目で見つめる小さな生き物。



ワタシは魔力を振り絞り、魔法陣を生成。

回復魔術を発動しました。


痛みに備えぎゅっと目を瞑る小さな生き物。

それを包み込む暖かな光。


光が収まる頃には、傷はすっかり癒えているようでした。


小さな生き物は光の魔力を感じとったのか、途中で目を開き驚いた顔をしていました。


目を白黒させ体を確認し、羽を動かし宙に浮かぶ小さな生き物。



『…アンタ、何?』



ワタシの顔をまじまじと見つめ、小さな生き物はそう問いかけてきました。




この日、

ワタシは妖精と出会ったのです。


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