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第四十話「声」

魔樹が倒れ、広場に静寂が訪れました。


それでもワタシは、なおも魔法を解かず警戒を続けます。


魔樹には騙し討ちが出来る程の知能がありましたからね。


まだ生きている可能性を考えたのです。



しかし根は動かない。

様子を見て少し経ち、“黒荊棘”の力を強めてみても、元々そういう形の枯れ木であるかの様に動く様子は無い。


ワタシに向かって伸びてきていた根でさえも、その場に固まりピクリとも動かない。


幹も動かない。

星の位置が変わり、風がサワサワと葉を揺らしても、魔法で真っ二つにへし折られた幹がのたうち回るような様子も無い。


ワタシに向かってぐにゃりと歪めた虚でさえ、もはや歪む気配は無い。



動かない。



ワタシは魔樹の討伐に成功したようだと判断しました。



少し間を置き、脱力。

ワタシは地面にへたり込み、魔法と警戒を解きました。


魔樹には気づかれていなかったようですが、魔樹との長時間に及ぶ攻防戦によってワタシは大きく体力を消耗していたのです。


最後に発動した“夜水面”と“黒荊棘“の大技により魔力もほとんど使い切り、あと数回魔法を使えば魔力切れを起こしてしまうところでした。


精度の高い魔法を発動し続けるのにも集中力が要りますし、何より四方八方から飛んでくる攻撃を延々と避け続けていましたので、精神的にかなり負荷がかかっていました。


あともう少し魔樹との戦闘が長引いていれば、もしあの瞬間に魔樹が痺れを切らしていなければ、倒れていたのはワタシの方だったかもしれません。



地面にへたり込んだワタシは、少しでも体力を回復させる為に(わず)かな時間だけ休憩をとる事にしました。


住処に帰ろうにも気力はプチリと切れてしまっていましたし、体力も魔力も限界に近い状態でしたから、そのまま帰るのは少々危険だと判断したからです。



ワタシは一つだけ持ってきていた果実を懐から取り出し、齧り付きました。

喉を潤し、胃を満たし、少しだけ気力が戻ってくる感覚を味わって、一息つきます。


食べ終わり、少し空を仰いだ(のち)、ワタシは重い体を持ち上げて、へし折った魔樹の幹の方へ足をむけました。



帰る前に近くでキチンと確認しておこうと思ったのです。



ナイフに手を掛け幹に近づくワタシ。

しかしどれだけ近づいても動く事は無く、ナイフを突き立ててみても何の反応もありませんでした。


動かない。


ワタシは改めて討伐が成功した事を確認し、また一息ついてナイフを仕舞いました。


あとは帰るだけ。


ワタシはそう思い後ろを振り返りました。



目に映るのは(そび)え立つ沢山の根。


よくよく見てみれば魔樹の枝にあったような、ひしゃげてしまっている鎧の一部などが根に引っかかっているのが見て取れました。


やはり、人間を引き摺り込んでいたのでしょう。


弱肉強食の世界ですから仕方の無い話ではありますが、人間に好意を寄せているワタシとしては、少々やるせない気持ちになってしまっても仕方の無い話だと思うのです。



さて、そのような気持ちになりながら辺りを見回していると、少し奇妙な物が目に入りました。


細い根が絡まり玉のような形になっている何か。

それが聳え立つ根の内の一つから生えていたのです。


先の戦闘の衝撃のせいか、根からは剥がれかけぶらぶらとぶら下がっていました。


あの魔樹が絡まったままの根を放置しておくだろうか?


鎧などと同じように上手く取れなかったのか?


少し気になり、そちらに足を進めようとしました。


しかしワタシが近づくよりも先に、


ベリッ


という音と共にそれは根から剥がれ、地面にゴロリと転がりました。


少し転がりピタリと止まる何か。



すると、

玉の方から声が聞こえた(・・・・・・)のです。



『もう、やぁだぁ…』



いえ、もう少し詳しく言えば、

頭の中に声が響き(・・・・・・・・)玉の方から(・・・・・)聞こえた気がした(・・・・・・・・)のです。


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