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第三十八話「発見」

根が伸びてきた方向へと走り出し数分と経たない内に、ワタシは魔樹のいる場所へ辿り着きました。



そこは円形状の広場の様な場所でした。


円の内側には草以外のものはほとんど何も見当たらず、中心に魔樹が立っているのみで、他に何かあるとすれば芽が出てあまり時間の経っていないであろう小さな幼木や、剥き出しの地面くらいだったでしょうか。


円の外側の木々は、冬である事を差し引いてもやや(しな)びていたので、おそらく魔樹に栄養を取られていたのではないかと思います。


当の魔樹は周りの木々に比べて少し背が低く、代わりに幹が一回りも二回りも太い上、枝は広場の空を覆ってしまう程広く横に伸びていました。


魔樹の幹にはうろが三つ。


顔の様にも見えるそれは、広場の空気をより薄気味悪いものへと変えているように思いました。



どこか不安を煽られているような心持ちになりつつも、警戒を解かず周囲を観察するワタシには、道中から浮かぶ一つの疑問がありました。



何故ここに辿り着くまでに、攻撃されなかったのかと。



ワタシは魔樹に見つかった瞬間から、最低でも数回は攻撃されるであろうと予想していました。


しかし結局攻撃されたのは最初の一回のみで、それっきり根が伸びてくる事は無かったのです。



攻撃されない理由を探し、ワタシはまた魔樹に目を向けました。


次の瞬間、魔樹に空いた虚がワタシの方へと向き、グニャリと歪んだのです。


まるで、笑うかのように。



「‼︎」



刹那、ワタシの後ろから伸びてくる根。


身を屈め回避し、跳躍。

魔樹の目の前、円の内側に降り立ちました。


ワタシの周りに、次々と姿を表す根。


しかし今度は攻撃してこず、ユラユラと揺れるばかりで何もしてきませんでした。


(なお)も笑うように虚を歪め、ザワザワと音を立てる魔樹を見てワタシは気付きます。



魔樹には“知性“があるのだと。


そして魔樹は、ワタシが戦闘態勢に入るのを待っており、その上でワタシを(なぶ)り殺すつもりなのだと。



魔物らしい残虐性。


嬲る事に悦楽を見出す、残酷さ。



魔樹の下へ訪れるまでに、最初の一撃以外一度も攻撃してこなかったのは、獲物が自ら(ふところ)に入ってくるのを待っていたからでしょう。


虚をグニャリと歪めたのも、相手の(きょ)を突く為だったのかもしれません。


それを学習するのに、一体どれだけの獲物(にんげん)が犠牲になったのでしょう。


魔樹の枝葉部分をよくよく見てみれば、異様な歪み方をした鎧の一部や、服の切れ端であろう布が引っかかっているのに気が付きました。


円の内側にある、地面が剥き出しになっている部分。


土がひっくり返ったようなその部分は、ただ根が出てきた部分というだけで無く、もしかすると獲物を引き摺り込んだ跡だったのかもしれません。



ワタシは魔樹が痺れを切らさぬ内に、戦闘態勢に入りました。


“探知“の効果範囲を狭め、代わりに精度を上げる。

“回復魔術“の出力を上げ、自身の場所を(ぼか)す。

“闇玉“をあらかじめ三つ作り、攻撃に備える。

“身体強化“はかけ直し、全身の感覚を研ぎ澄ます。

この場に置いて不要な魔法は全て解き、魔力を温存する。



魔樹と対峙し、直感的に魔樹は“生命力“を見ているのだと感じたので、“音“や“熱“の仮説は切り捨てました。


本能、というより、野生の勘とでも言うのでしょうか。


それが以外と当たるものだと、ワタシは知っていましたからね。



さて、魔樹にはおそらく“知性“があるとは言いましたが、知性があるというだけで“理性“は無いように感じました。


魔物としての“本能“に突き動かされ、獲物を求めただ食らう。

“知性“を持って罠に嵌め、嘲笑う。

満足いくまで際限無く、甚振り嬲り絡め取る。


ワタシには、魔樹に“理性“が欠片程もあるようには思えませんでした。



自身が想定していたよりも、かなり厄介な相手と対峙した事を感じ、ワタシは右手のナイフを持ち直しました。



戦闘開始です。


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