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第三十七話「いない」

走る。走る。走る。

森の中を走る。


人間が作った道の近くを。

人間の倒れていた茂みの辺りを。

人間が彷徨いていた場所を。

蛇行するように、円を描くように、遡るように、

走る。


地面を跳ねるアレはウサギ。

ウサギを追うアレはキツネ。

空を飛ぶアレはトリ。

樹上を這うアレはヘビ。

ゆっくり動くアレはよく分からない、

けど、根ではない。



いない、いない、いない、何処にいない。

目星を付けた何処にも(・・・・・・・・・・)いない(・・・)



ワタシの当ては、外れました。



商人らしき人間も襲われていた事から、人間の通る場所の近くに魔樹はいると予想を立てました。


しかし結果は惨敗。

魔樹の影も形も見当たらなかったのです。


何処かで見落としたのか、速く走り過ぎたのか、はたまた仮説が全て間違っていたのか、もしや既に討伐されたのでは。


理由を探しましたが答えは見つからず、ワタシは頭を悩ませました。



ですが見つからないものは仕方がありません。


非常に気は進みませんでしたが、別の策を練って日を改めるという方法もありましたし、すぐにどうこうという話でも無かったので焦る必要もありませんでした。


本当に気が進みませんでしたけどね。


一先ずワタシは、一度目とは別の順番で目星の場所を周る事にしました。


今度は大回りをした上で、少し速度を落として。



川を沿うようにして一箇所目。

池の近くを通って二箇所目。

道を外れて三箇所目。


そして、四箇所目。


回り込むようにして通った背の高い木々が立ち並ぶ場所。


ワタシはそこで違和を感じました。


他の場所に比べ生き物が少ない。

生き物の気配があまりに無い。


気にし過ぎかと思った次の瞬間、“探知“の魔法が地面から伸びてくる“何か“を捉えました。



即座に身を(ひるがえ)し、(かわ)す。

勢いのままに、右手に持っていたナイフで近くの木に()を突き立てる形で、“それ“を釘付けにする。



“それ“は間違いなく魔樹の根でした。



目視で確認した魔樹の根はウネウネとぎこちなく動き、ナイフから逃れようとしているようでした。


ですがここで、ワタシは小さな引っかかりを覚えたのです。



思っていたより攻撃の精度が低い。


ワタシに向かって伸びた根は、ワタシがいた所からも少しずれ、(くう)を突き刺さしていたのです。

それに速度もあまり出てていないように思いました。


こんなもので、多数の冒険者が被害に遭うだろうか?


そんな疑問が浮かびつつ、ワタシは根が伸びてきた方向に目をやりましたがそこには何も居らず、夜の闇が広がるばかりでした。



おそらくまだ距離があるのだろう。



ワタシはそう納得した直後、


バキリ。


やけに渇いた音が鳴り、ワタシの右手のナイフから根が無理矢理抜け出して、少しぎこちない動きで地面へ戻っていきました。



この先に、魔樹が居る。


ワタシは改めて確信し、そちらへと足を踏み出したのです。


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