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第三十六話「魔樹討伐」

決行当日、夜。

草木も眠る真夜中の頃。


天候は晴れ、雲一つ無い晴天。

そこに浮かぶのは、煌々(こうこう)と輝く丸い月と星々のみ。


光に照らされた暗い夜の森は、むしろその黒さを増して、ただそこで静かに鎮座していました。



ワタシにとっては、都合が良い。



改めて状況を確認したワタシは、魔樹の討伐に向け動き出しました。



余計な相手に見つからないように“認識阻害”を。

体力をあまり使わないように“身体強化”を。

そして動きを察知する為に、“探知”の魔法を発動しました。



闇魔法における“探知”は、自身が触れている闇や影の中で起きた出来事をある程度把握出来るというもので、動く物を捉えるのに向いています。


闇や影が濃い程に精度が増し、魔法の効果範囲が広がりますが、闇魔法の例に漏れず光には弱く、昼間の開けた場所などでは使い物になりません。


逆にいえば閉じた夜の森で使うにはうってつけ、というわけです。



もちろん、最大限の効果が得られるとはいえ、魔樹が動かなければ察知出来ません。



ですからワタシは、魔樹が自ら動くよう仕向ける事にしたのです。



ではまず、魔樹を魔法の効果範囲に入れる方法ですが、これは至ってシンプルです。


手順その一、“探知”の魔法を発動する。


手順そのニ、走り回る。


以上です。


ええ、それだけですよ。



そんなやり方で大丈夫かと思われるかもしれませんが、走り回る場所には目星を付けていましたし、“身体強化”の効果であまり疲れる事もありませんでしたからね。


これが一番手っ取り早く、かつ現実的なやり方だったのです。



それに魔樹は狩りの時以外はほとんど動きませんから、ワタシが魔樹を見つけるより先に、魔樹にワタシを見つけさせた方が早いと判断しました。



えぇそうです。


ワタシは、自身を囮に使う事にしたのです。



“探知”の魔法があるので死角から攻撃されても避けられますし、向こうから見つけてくれるならワタシとしては楽が出来るので、少々危険が伴う事を承知で、その方法を選びました。



あぁただ、流石に真下の地面から根を伸ばされると避けようがありませんので、念のため走り回るのは木の上だけにしておきました。


土の中には森の影も届きませんからね。



さて、囮作戦を取るにあたり、ワタシは魔樹にとってより魅力的な獲物になる必要がありました。



では、魔樹にとって魅力的な獲物とは?



魔樹の生態から考えるに、おそらく“生命力に溢れた生き物”の事だろうと思いました。


では、魔樹はどのようにして“生命力に溢れた生き物”を見分けていたのでしょうか?


動いただけで獲物と見做(みな)しているのならば、何の足しにもならないような小さな虫や、何かの拍子に動いた無機物にまで根を伸ばしていてもおかしくはありません。


しかしワタシが知っている限り、魔樹は小さな虫や無機物には反応していませんでした。


最低でもリス程度の大きさの生き物でなければ、根を伸ばしてはいなかったのです。



以前にも言いましたが、魔樹に目はありません。

当然、何か別の方法で判断していた筈です。


そこでワタシは三つの仮説を立てました。


一つ目は、“音”の振動の立て方で生き物を判別していた説。

二つ目は、生き物の“熱”に反応していた説。

三つ目は、“生命力”を直接感知していた説。



いずれにしても、ワタシにそれらの説を証明する為の時間はありませんでした。


ですが、証明する必要もありませんでした。


三つの内、どれかが正しければ良いのです。


三つとも同時に試してみれば良い。

ワタシはそう考えました。


“音”は、普通に走り回っていれば良いでしょう。

“熱”は、“身体強化”の応用で体温を上げられます。

そして“生命力”は、“光の回復魔術”が使えると踏みました。



ワタシは左掌(ひだりてのひら)の上に、小さな魔法陣を生成し、そして外向き(・・・)に発動。


魔法陣から“生命力”を纏った魔力が空の中へと流れていき、辺りに満ちていきました。


後はそのまま走るだけ。



ワタシは夜の森を駆け始めました。


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