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第三十五話「準備」

ワタシが森で見かけた人間の中には、冒険者以外に旅人や商人らしき者も少なからずおりました。


人間達の抱えていたであろう問題とは、そういった旅人や商人などの一般人が魔樹に襲われていた事なのだと思います。


そこらの森ならいざ知らず、人里への道中で被害が多発していたならば、道の先にある街や村全体が被害に遭っているといっても過言ではありません。


その被害に遭っているであろう街などの(くらい)の高い誰かが、冒険者に討伐あるいは調査依頼を出し森に人間が増えていた、という事なのでしょう。



つまりところ、根本の問題たる魔樹さえ倒してしまえば、森を出入りする人間の数も次第に減っていくのではないかと考えたわけです。



ですがそれはあくまでも人間達が抱える問題です。


ワタシとて全く関係が無いとは言いませんが、ほとんど部外者のようなものですからね。


あまり首を突っ込み過ぎるのは余計な面倒事を呼びかねません。



それに問題を解決したとして、人間達はどう思うでしょうか。


魔樹は何処へいった?誰が魔樹を倒した?何故誰も名乗り出ない?

何故誰も知らない?


当然、疑問が湧くでしょう。


仮に疑問が出たとしても、時間と共に静かに風化していくのであれば良いのです。


ワタシが恐れていたのは、疑問のその先。

人間達が“魔樹を倒した誰か”を探し始める事です。


えぇ、この場合だと“ワタシ”の事ですね。


それでもまぁ探し始めたとして“人の生活圏内”なら良いのです。


困るのはその逆“人の生活圏外”、つまり“魔樹のいた森”まで探しに来られる事です。


えぇ、“ワタシの生活圏内”です。


そうなってしまえば、流石のワタシも諦めて森を出て行かざる得なくなります。


 

ただ以前も言いました通り、ワタシは文字を覚えきるまでは極力場所を移動したくはありません。


しかし目下の問題をどうにかしなければならないのも事実。


どの道そのまま放置し続けるのは、ワタシにとって非常に都合が悪い。


住処を変えるという選択を先延ばしにする為には、魔樹を倒す他無さそうでした。



さて、気が進まないながらも魔樹を討伐するという決断をしたワタシは、その為の準備を始めました。


まずは丸一日を潰し、その日を含めた三日分の食糧の確保。


次に食糧を確保しつつ、人間が使っているであろう道と見かけた場所の把握。


最後に、魔樹がいそうな場所に目星をつけ策を練る。


後は討伐に備えて眠るのみ。



倒した事があるとはいえ、相手は魔樹。


戦うのにも探すのにも苦労するでしょうからね。


万全の準備で挑む必要がありました。



決行は翌日の夜。


人間に出くわす可能性の低い夜更け。


闇魔法を扱い夜目の効くワタシにとっては、最も都合の良い時間帯でした。



こうして一日分の勉強時間を全て削りきり、討伐の為の準備時間に充てたワタシは、一つの小さな決意を固めたのです。


必ず魔樹を探し出し、バキバキに折ってやるのだと。


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