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第三十四話「増える人」

駆け出し冒険者が落ちているのを見つけて以来、森の中でたびたび人間を見かけるようになりました。


頻度はだいたい数日に一度あるかないか、何かを探すようなそぶりをしている冒険者をチラリと見かければ多い程度、だったと思います。



夏が終わるまでは、その程度で済んでいました。



夏が終わり、秋が始まり、秋の中頃に差し掛かってくると頻度は上がり、数日に一度気絶している人間を見かける事が多くなってきたのです。


気絶していた人間の体には、ほとんどの場合あの刺し傷があったので、おそらく魔樹に襲われていたのでしょう。



森で見かけていた人間のほとんどは冒険者でしたし、魔樹の討伐依頼でも出ていて、少し手間取っているのだろうと思いました。


ただ、いくら魔樹が厄介とはいえ思いの外時間が掛かっているような気もして少々引っかかりましたが、まぁその内収まるだろうと、あまり気に止めずにいたのです。



しかし冬が始まっても被害は収まらず、むしろ人間を見かける回数はさらに増え、三日連続で気絶した人間を見つけた時には、流石におかしいと気が付きました。



それも、三日目に見つけたのは冒険者のパーティ。


その内一人は深手を負っていたので、魔術だけでは足りないと判断し、回復魔法や身体強化の魔法をかけました。


そして全員に、あの刺し傷。


想定していたよりも被害が拡大してきている。



もしあのまま被害が拡大し続けれていれば、まず間違い無く、高位の冒険者が森にやってきていた事でしょう。


そうなればきっと、彼らは森の中にいるであろう魔樹を退治してくれる筈です。


ですが、ここで問題となるのは、そんな彼らとワタシが鉢合わせてしまう可能性があるという事。


一般人や駆け出し冒険者ならば、ワタシは正体を隠し切る事ができるでしょう。


中位の冒険者であっても、なんとか誤魔化し通せたのではないかと思いますし、無理でも逃げ切る自信がありました。


しかし高位の冒険者ともなれば、経験はもちろん、実力も折り紙付き。


ワタシがどんなに上手く正体を隠したとしても、一目で見抜かれる可能性が無いとは言い切れず、逃げ切れる保障も無いのです。



そうならない為に、森の中ではより一層慎重に行動せざるを得なくなり、それに伴い移動速度が落ちてしまうでしょう。


となれば、食糧調達をするのにも少々手こずるようになってしまいます。


手こずるという事は、時間がかかるという事。


時間がかかるという事は、勉強時間を削る必要が出てくるという事。


勉強時間を少したりとも削りたく無かったワタシにとってそれは、大問題だったのです。



ワタシは頭を悩ませました。


人間に見つかりたく無いから動きづらい。

動きづらいから狩りがしづらい。

狩りがしづらいから時間がかかる。

時間がかかるから勉強時間が削れる。

そもそも高位の冒険者が来てしまえば、ここに居られなくなるかもしれない。


一つの問題から芋づる式に問題が発生し、ワタシはなんとかそれらを解決出来ないかと、いくつもの方法を考えました。


洞窟に居座り続ける方法。

勉強時間を削らない方法。

狩りの時間を短縮する方法。

高位の冒険者に出くわさない方法。

森にやってくる人間の数を減らす方法。


少々焦りを感じながらも頭をひねり続けましたが、どの案もイマイチ効果的とは思えず、正直お手上げといったところでした。


しかし、文字を覚えきるまでは極力移動したくは無い。



なのでワタシは諦めて、根本の問題をどうにかする事にしました。



冒険者達の問題が解決しないのであれば、ワタシが代わりに解決してしまえば良い。



そう、ワタシは魔樹の討伐を行う事にしたのです。


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