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第三十三話「落ちていた冒険者」

ワタシが見つけた冒険者らしき青年は、見た目の印象や持ち物から、ソロで活動している駆け出し冒険者なのだろうと判断しました。


脇腹の辺りが血で濡れていたので、辺りに漂っていた血の匂いの原因はそれだったのでしょう。



ただ、見た目の出血量の割には顔に血の気が無い。


別の場所も出血しているのか、それとも見た目より出血量が多いのかと思いとりあえず服をめくってみれば、そこには既に止血済みの丸い小さな傷がありました。


背中側も見てみると、丸い傷の丁度反対側にも同じような傷があったので、おそらく同じ一つの傷、貫通している傷だったのだと思います。



ワタシはその傷に、一つ心当たりがありました。



沼地ばかりの密林にいた、木の魔物。

“魔樹”とでも言うのでしょうか。

一見するとそこらに生えているような木と変わらない外見をしているその魔物は、その外見を活かし木に擬態して獲物を襲う習性があります。


狩りをする際、魔樹は自身の根を操り攻撃を加える、あるいは捕えようとしてくるのですが、厄介な事にその魔樹の根というのが、獲物の生命力などを吸う性質があるようなのです。



駆け出し冒険者の脇腹にあった傷は、魔樹の根に貫かれたものとよく似ていました。


大方(おおかた)、魔樹に不意打を食らって生命力を奪われ、命からがら逃げてきた先で気絶してしまった、といったところでしょうか。



あぁ、何故ワタシがそんな事を知っていたかですか?


ワタシも魔樹に腕を貫かれた事があるからですよ。



“認識阻害”をかけていたにも関わらず襲われたという事は、きっと目以外の感覚器官でワタシを見ていたのでしょうねぇ。


あの時は魔樹に荷物を奪われてしまい、やむなく戦闘に入りましたが、沼地で動きづらいわ攻撃は読み辛いわ根に触れないわ腕は痛いわで、非常にやりにくい相手でした。


まぁ、荷物を取り返した時点でバキバキに折ってやりましたけどね。


えぇそうですよ。

不意打ちで腕を貫かれた腹いせです。



で、ですね。

脇腹を貫かれた駆け出し冒険者は、幸か不幸か気絶した先で、“回復魔術”を試してみたいワタシに見つかってしまったわけです。


少なくともワタシにとっては、とても幸運な出来事でした。


そのまま放置しておくのは忍びないですし、例え都合の良い出会いでなかったとしても、治してはいたとは思いますけどね。



ワタシは早速、魔術を試す…前に、その準備を始めました。


すぐ魔術に取り掛かっても良かったのですが、血の匂いに釣られて邪魔が入っても困りますからね。


まずは冒険者の彼の姿を隠す為に、彼とワタシをすっぽりと覆う形で、“認識阻害”と“幻覚”の魔法をかけました。


“幻覚”の魔法で多少は血の匂いを誤魔化せますが、心許(こころもと)ないので適当に匂いの強そうなハーブを積んできて軽く揉み、辺りに撒きました。



安全は確保した。時間もある。魔術に害が無いのは確認済み。相手は逃げない逃げだせない。


条件は揃った。


後は魔術を試すだけ。


ワタシは今度こそ、魔法陣を作り始めました。



駆け出し冒険者の上で“闇玉”を作り、形を整える。

魔法陣の形になるまで充分に時間をかけ、完成させる。

間違い無く発動させる為に、魔術の名を呟く。



「“カイフク”」



彼の身体中にあった小さな傷は消えていき、顔に血の気が戻り、少し冷えていた体は熱を取り戻していきました。


魔術は成功。

刺し傷の跡は少し残りましたが、身体中の傷をは癒え、顔色が良くなった事から、生命力がしっかりと流し込めているのだと確認出来ました。



「う…ぐ…」


「!」



想定していたよりも起きるのが早い。


そう思ったワタシは急いで自身に“認識阻害”の魔法をかけ、近くの木の上に隠れました。



「ここ…は…あぁそうか、木の魔物に襲われ…て…?」



確認するように脇腹を触り、不思議そうな顔をする冒険者。



「傷が無い…それに体も、軽い?」



起き上がり、体の調子を確かめ、ますます不思議そうにして首を捻る冒険者。



「なんでだ…?」



少しの間何やら考えこんでいましたが、一先ずそこを離れる事にしたようで、辺りを警戒しつつ何処かへと行ってしまいました。


きっと拠点にしている町にでも帰ったのでしょう。



こうしてワタシは、冒険者の体に異常が無い事も確認し、自身の“魔術”がキチンと発動している事を喜び、少しづつではありますが確実に前へと進んでいるのだという実感を得たのです。



そしてこの日からです。


ワタシが森の中で、たまに人間を見かけるようになったのは。


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