表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/196

第三十一話「最初の魔術」

魔法で魔術を発動させる。


一見すると矛盾しているような印象を受けますが、事実可能であり、“魔法式魔術”という名で魔法技術の一つとしてキチンと存在しています。



やり方としてはまず、何かしらの魔法を発動させ、それを魔力操作で魔法陣の形にした後、発動するという意志を込める、というものです。


魔法式魔術とは少し違いますが、自身の魔力を体の外へと滲み出させ、直接魔法陣の形にする、というやり方もあります。


現在のワタシが使用しているのは、主にこちらのやり方ですね。


どちらにもメリットデメリットはありますが、共通しているのは“魔力操作で形を作る”という点です。


それもただの魔力操作では無く、細やかな魔力操作が必要となります。


難易度は、魔法の同時発動と同レベルかそれ以上とも言われており、少し魔力操作が上手い程度では扱えず、それなりに鍛錬を積まなければなりません。



そもそもとして、ただ魔力で線を描きたいのであれば、魔道具屋で“魔力線専用ペン”が売られていますから、それを買ってしまえば済む話なのです。


わざわざ道具無しで描こうとする者なんて、ほとんど居ません。


居たとしても上位の冒険者であったり、鍛錬を積んだ魔術師、魔道士であったり、あるいはそういう類の物好きくらいでは無いでしょうか。



と、まぁ説明が長くなってしまいましたが、簡単に言ってしまえば“わざわざ扱う者の少ない高等魔法技術の一つ”という事です。



そんな事など欠片も知らない当時のワタシは、その時の思いつきのままに、両掌(りょうてのひら)より大きな“闇玉”を作り、魔力操作でゆっくりと外へと移動させていきました。



手の内から離れ、洞窟を出て、雨の中に入り、集中力が切れぬように、細糸で操るように、ゆっくり、ゆっくりと移動させていきました。



えぇ、そうです。

ワタシは、幸運にもその技術が扱えたのです。

ツキノ村で、それだけの訓練を積んでいましたからね。


ただ、簡単に扱えた訳ではありません。


何せ初めての事でしたし、“高等魔法技術”と言われるだけあってかなり難しく、相当の集中力が必要でした。



“闇玉”をある程度の場所まで移動させた後は、“闇玉”を平たく押し潰していき、丸い皿の様にしていきました。


形が崩れぬように、割れぬように、壊れぬように、丁寧に、丁寧に押し潰していきました。


直径がワタシの身長の半分くらいになった所で、今度は魔法陣の形になるように、平たい“闇玉”を変形させていきました。


曲線を描き、直線を描き、千切れさせ、繋げ、整え、記号を描き、文字を描く。


目に焼き付くほど眺めた魔法陣を、時間をかけて形成する。



どのくらいの時間をかけたのでしょう。

少なくとも、時間が分からなくなる程集中していたのは確かです。



じっくり、じっくりと時間をかけ、ようやく魔法陣を完成させたワタシは最後に、確実に発動させる為に、意志を込めて一言呟きました。



「“カイフク”」



魔法陣から闇の色が抜けていき、淡い光を放ちながら辺りを仄かに照らしました。


それは紛れも無く“光属性の魔力”だと、ワタシは直感しました。


弱々しく、頼りなく、すぐに消えてしまいそうではありましたが、それは間違い無く“光属性の回復魔術”だと確信したのです。



気が付けば雨は上がっており、薄暗い雲は消え、空は茜色に染まっていました。



この日ワタシは初めて魔術を成功させ、

魔術師としての道を歩み始めたのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ