第二十九話「洞窟」
さて、名残惜しいという気持ちを飲み込み、トニックさん、フィズさん、ジンと別れたワタシは森へと入っていきました。
彼らと別れて数日後、山の中でちょうど良い大きさの洞窟を見つけたので、ワタシはしばらくそこで暮らす事にしました。
理由はごく単純。
“しっかりと腰を据えて勉強したかった”からです。
せっかく二人から文字を教えてもらったばかりなのに、忘れてしまっては元も子もありませんから、そうなる前に身につけてしてまおうと考えたのです。
一人旅をしながらでは、どうしても時間を割くのは難しくなりますし、何より本が雨に濡れたり土で汚れたりして、読めなくなってしまう可能性もありましたから、出来るだけそういう事を避けたかったのもあります。
そういうわけで、まずは洞窟内の整備から始めました。
とはいっても、邪魔そうな部分を削ったり運び出したりした後に、“認識阻害”と“幻覚”の魔法を洞窟の出入り口にかけただけなんですけどね。
あと他に何かしたかと言えば、座りやすそうな木や、焚き火に使えそう枝を持ち込んだり、旅の荷物や食料を置く場所を作ったり、その程度でしたかねぇ。
まぁ、ただそれだけであっても、旅をしている間より随分快適に過ごせたのに違いありません。
あぁそれから、ワタシはこの後、季節が一巡するまでの期間、その洞窟に住み着く事になるのですが、その間、荷物は徐々に増えていき、快適さもドンドン上がっていきました。
いやぁ、冒険者や旅人が落としたであろう物を拾ったり、拾った物を利用して机や椅子を自作してみたりしていたのですが、だんだん楽しくなってしまいまして。
小さな鍋を拾った時には、フィズさんの真似をしてスープを作ってみたりもしたのですが調理の仕方が悪かったせいか食材の組み合わせが拙かったのか、とにかく食べれた物ではなくてもう生で食べてる方が良かったと思う程…
…なんて、そういう事をしていたから、余計に滞在時間が延びてしまったんでしょうねぇ。
あぁそういえば、冒険者や旅人そのものが落ちている事もしばしばありましたが、それはまぁ、後にしておきましょうか。
とりあえず、話を戻します。
整備も終わり、いくらかの物を持ち込んだワタシは、早速洞窟の中に腰をおろし、本を手に取りました。
絵本はなんとか読めるようになっていましたので、難易度的に、次に読むべきは“冒険譚”の方だったのですが、その時ワタシが手に取ったのは、“魔術書”の方でした。
フィズさんとトニックさんから、魔術とは何か、何が出来るのか、その魔術書には何が書かれているのかを軽く教えてもらっていたワタシは、まず何よりも先に、覚えておきたい魔術があったのです。
それは自然治癒力に頼らずに、傷を癒す方法。
魔力を生命力に変え、直接流し込む方法。
何か起こっても、誰も死なないようにする為に。
ワタシは、
光属性の“回復”について書かれたページを開きました。




