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第二十七話「とある日の夜」

魔物の群れに襲われなくなってから数日後。

ワタシ達は泉の(ほとり)に馬車をつけ、夜営をしていました。


食事を終え、明日の準備をし、夜も更けていた。

そんな、とある日の夜の事です。



「ゴブリンさん?」


「…マダ、オキテタ?」


「はい、なんだか眠れなくて…」



ワタシがぼんやりと夜空を眺めていると、後ろからトニックさんが声をかけてきました。


その日の馬車移動中、トニックさんはウトウトと昼寝をしていましたから、夜になってあまり眠れなくなってしまったのかもしれません。



「何か見えますか?」


「ホシ」


「星、ですか。そうですね、今夜は雲一つありませんから、空を眺めるなら良い日です。…ご一緒しても良いですか?」


「イイ、デス」


「では、失礼して」



そう言ってワタシの隣に腰を下ろし、トニックさんはワタシと同じように空の彼方を眺め始めました。



どのくらいそうしていたでしょうか。

どこかで夜鳥が鳴いた頃、トニックさんが口を開きました。



「…どうしてあの時、僕達を助けてくれたんですか?」


「…ナゼ?」


「すいません急に…ただ、前から気になってたもので」


「…モジ、シリタカッタ」


「はい、そういう約束でしたね。でも、それってきっと、僕達じゃなくても良かったと思うんですよ。あの時、誰か一人を連れ去って、無理矢理教えさせる事も出来た筈なんです」


「…」


「ゴブリンさんが優しい方だから、というのはわかってますが、その…人を殺すのにも、あまり抵抗があるように見えなかったもので…」


「ソレ、ハ…」


「気を悪くしてしまったならすいません。…やっぱり、今のは聞かなかった事に…」


「…トウゾクハ、キライ」


「!」


「ヒトハ、スキ」


「…その理由も、聞いていいですか?」


「…キキタイ?」


「是非」


「…」



ワタシは、悩みました。

今まで、誰にもワタシの話をした事なんてありませんでしたから、本当に話して良いものか、判断に困ってしまったのです。


まぁそもそも、まともに会話をしたのだって彼らが初めてでしたから、当然と言えば当然なのですが。


…ゴブリンの村にいた頃は、ワタシの話に興味を持つ者など、いませんでしたしね。


それに、ワタシがトニックさん達と関わりを持っていたのは、あくまでも文字を教えてもらう為。

交換条件として、彼らの安全を確保するだけの関係であり、それ以上の関わりは本来、必要無い筈なのです。



ですがワタシは…

彼に話してみたいと、思ってしまいました。


ワタシは、嬉しかったのです。

ワタシに興味を持ってくれた事が、ワタシを知ろうとしてくれた事が、ワタシに目を向けてくれた事が。


思えばワタシは、そんな誰かを

ずっと探していたのかもしれません。


だからワタシは、彼に話をしようと思ったのです。



「…スコシ、ナガク、ナル」


「構わないですよ」


「…アレ、ハ…」



ワタシが滞在した、人間の村での出来事。

ワタシが一人で、旅をしていた時の事。

ワタシの生まれた、村の事。

ワタシが経験し感じた事を、(さかのぼ)る様に、彼に話しました。


途中、ふと、喋り過ぎてしまったのではと不安になり、チラリとトニックさんの方を見ると、



「…なるほど、その様な事があったのですね」


興味深げな表情をしてこちらを見る、彼の顔がありました。


「…ツマラナク、ナイ?」


「?いえ、とても興味深いです」


「…ソウ、デスカ」



つまらない顔をしていない、興味を失っていない、キチンと話を聞いてくれている。


ただそれだけ、それだけの事が、

ワタシにはとても嬉しかった。



「…ん〜?トニックくん、何してるの?」


「あっフィズちゃん、ごめんね、起こしちゃった?」


「いいわよぉ、気になって起きてきたのは私だし…ゴブリンさんと何してるの?」


「あぁ、ゴブリンさんの昔話を聞いてるところだよ」


「トニックくんだけズルい…私も聞く」


「…キキタイ?」


「聞きたい」


「あぁすいませんゴブリンさん、フィズちゃんも一緒にいいですか?」


「カマワ、ナイ」


「ありがとうございます。ほらフィズちゃん、こっちにおいで」


「ん〜…寒い」


「…焚き火、つけましょうか」


「…オネガイ、スルマス」



穏やか夜はゆっくりと過ぎ、つけたばかりの焚き火に照らされて、ワタシ達は気の済むまで、互いに語らいました。

自身の事を。彼らの事を。


ワタシが見てきた、冒険者達と同じように。



楽しい時間は過ぎてゆき、二人が寝床に戻る頃。

眠る前にワタシは、また空を見上げました。


目に映る満天の星空。

赤く煌めき、青く煌めき、白く煌めく星々と、

それらの間を縫うように流れた一筋の光を観ながら、

ワタシは思うのです。


こんな日々が続けばいいのに、と。


そんなワタシの思いとは裏腹に、

別れの日は、ゆっくり、ゆっくりと近づいていました。


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