第二十五話「フィズの魔力」
フィズさん曰く、彼女の体は、際限なく魔力を作り出してしまう体質なのだそうです。
幼子の頃はそれでも大した事は無かったそうなのですが、年齢と共にその量も増え、自然に発散される量を上回り、徐々に彼女の体を蝕んでいきました。
そのせいで子供時代はとても虚弱で、自室から出る事もほとんど叶わず、毎日本を読む生活をしていたそうです。
ある時、彼女の体の“魔力を蓄える機能”が限界を迎え、穴が空いてしまいました。
長期間に渡り無理な負荷をかけ続けていたのですから当然です。
通常その様な事が起こってしまった場合、体がショックに耐えられず、亡くなってしまう事も多かったそうです。
子供の体ならば尚更でしょう。
しかし、なんと彼女の体は穴の空いた状態に順応し、生き永らえました。
魔力が溢れ、滲み出ていくのでは無く、放出するものとして、順応してしまったのです。
そしてそれは、魔力を感じ取れる者にとって非常に見つけやすい状態になってしまった、という事でもありました。
この状態になってしまった彼女にとって、もう一つ、不幸な事がありました。
それは、彼女の“魔力の特性”についてです。
彼女の魔力は物に“なじみやすい”という特性があり、物に魔力を宿らせる“魔力付加”、誰かに魔力を受け渡す“魔力譲渡”、物に魔力をなじませて印を付ける“目印”といったような、無属性魔法を得意としていました。
ただ、その他の魔法はからっきしで、何一つとして身に付かなかったそうです。
彼女の魔力が持つ“なじむ”という特性。
どんな物にもすんなりと溶け込み、抵抗感無くなじんでしまうという特性。
もし彼女の魔力を取り込めれば、拒否反応無く体になじみ、一時的にではあるでしょうが、自身の魔力を強化する事が出来るでしょう。
魔物は、魔力に貪欲です。
魔物からすると、彼女の持つ魔力は“美味しそうな気配”として、本能で感じとれてしまうのです。
常に魔力を放出し、魔力を感じ取れる者からは非常に見つけやすく、自身を守る力すら無い彼女は、魔物にとっては“恰好の獲物”、あるいは“極上の獲物”だと感じ取れてしまいます。
「普段は、魔物避けの魔道具に魔力を吸わせていたんですが、あの時、盗賊に盗られてしまって…」
「?トリカエ、サナカタ、ナゼ?」
「あっいえ、取り返したのは取り返したんです。ただ…その時には壊れかけてて…」
「トウゾク、コワサレタ、デスカ」
「えっと…あの…ゴブリンさんが最後に吹っ飛ばした盗賊の人、いたじゃないですか」
「イタ」
「その人が持ってたんですよ…」
「…アァ」
「それでも、魔力を吸う機能だけは生きてたので、そのまま使ってたんですが…馬車移動を始めた翌日に、完全に壊れてしまって…」
つまり、フィズさん達の身を守る為の魔道具を壊したのはワタシで、そのせいで魔物に襲われるようになったと。
ワタシのせいでした。
「ゴメ、ナサイ」
「あっ、ちっ違います!ゴブリンさんは悪くありません!」
「デモ」
「ゴブリンさんが助けてくれなかったら、私達どうなってた分からないんですから!どうか気にしないで下さい!」
「僕なんか絶対死んでましたしね…ゴブリンさんには感謝こそしても、責めるような事なんて絶対にありえませんので」
「…ヨカッタ」
「むしろ、こちらこそごめんなさい…正直、移動中は馬車の魔法陣にも魔力を吸わせてたので、ここまで酷い事になるとは思ってなくて…」
「バシャノ、マホウジン?」
「あぁ、それについては僕が説明します」
トニックさん曰く、ワタシ達が乗っていた馬車には、ワタシが“認識阻害”の魔法をかける前から、魔法陣が描かれていたようなのです。
馬車に描かれた魔法陣の意味は“重量軽減”。
フィズさんが持っていた魔法具に比べて、かなり魔力消費が少ないものらしく、どうしても、漏れ出す魔力が余ってしまうとの事でした。
そしてその漏れ出す量が、想定していたよりも多かったらしく、あのような数の魔物に目を付けられてしまったのだそうです。
その時まで気づきませんでしたが、確かに馬車の中を魔力が巡っているのを感じました。
魔法陣、つまり、魔術。
この時に、ワタシはようやく魔術の存在を知ったのです。




