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第二十二話「文字学習」

えぇ、そうです、そうなんです。

実はワタシ、この時まで自分の種族名を知らなかったんですよ。


知っていたのは、“自分はおそらく魔物である”という事、そして“自分の種族のおおよその生態”についてだけで、フィズさんとトニックさんから“ゴブリンさん”と呼ばれるまで、それが自分の種族名だとは気づきもしなかったのです。



前者はツキノ村にいた時に、稀に“魔物”という単語を耳にする事があったので、よくよく内容を聞き、考え、意味を探っている内に、なんとなくではありますが、ワタシ自身も“魔物”という分類に当てはまりそうだという仮説でした。


後者は、ワタシの薄い本能からくる感覚的な物と、同種と思われる者達を観察した結果です。


ワタシが今までゴブリンだゴブリンだと口にしていたのは、過去の話をする上でそう言っておいた方が、分かりやすくて都合が良いと考えたからです。



さて、ワタシの種族“ゴブリン”について、フィズさんとトニックさんに根掘り葉掘り質問してから、数日が経った頃。


ワタシは彼らから、本格的に文字を教えてもらい始めました。


それまでは、トニックさんの体調が優れず、フィズさんの精神的な負荷も大きいと判断した為、ごく短時間の学習だけに留めていました。出来るだけ警戒を解いてもらう必要も有ると思い、ワタシに慣れる時間を設けたというのもあります。


もし逃げられてしまっても、仕方ないと諦めるつもりでした。


まぁいくら時間を設けたとはいえあそこまで慣れてしまうとは、予想外でしたけどね。



「…じゃあこれを踏まえて、これはなんて読みますか?」


「…“エイユウ”?」


「正解」


「エイユウ…コッチハ、ナンテヨム、マスカ」


「読みますか」


「ヨミマスカ」


「そう、それは…」



文字の読み書きの大半は、フィズさんが教えてくれました。


彼女は、ワタシがより理解しやすいように、簡単な単語から始めてくれたり、ゆっくりと喋ってくれたり、ついでにワタシの話し言葉を正してくれたり、何かと工夫してくれました。


ワタシが二人と別れた後にも学習できるようにと、いくつかの単語の横に小さな絵を描いてくれたのも彼女です。


実際一人で学習する上で、この絵はとても役に立ちました。



「おはようございます、ゴブリンさん」


「オハヨ、ゴザイマス…タイチョウ、ハ?」


「今日は調子が良さそうです。よろしければ、一昨日出した宿題、一緒にやりましょうか」


「シュクダイ、デキテル」


「あ、もう終わってたんですね。じゃあ答え合わせしましょうか」



トニックさんは体調を整えるのが最優先事項でしたから、あまり時間を取る事は出来ませんでした。


ただしその代わりに、宿題と称して、単語の組み合わせによるごく簡単な文章作りの問題や、足し算引き算といったちょっとした計算問題を出していただきました。


文字以外の事柄や知識を教えてくれたのは、もっぱらトニックさんでしたねぇ。



「あぁそうだ、ゴブリンさん。少しお時間よろしいですか」


「?ナニ?」


「実は、図々しい事は承知の上なんですが…折り入ってお願いがありまして」



トニックさんがワタシにお願い事をしてきたのは、そんな話をしていた最中でした。



「オリイ…?オネガイ、ナン、デスカ?」


「はい。僕らが次の町に着くまでの間、ゴブリンさんとの契約を延長して頂けないでしょうか?」


「ケイヤク…ヤクソク?モジ、オシエルノ、ト、ナオス、マモルノ、コウカンスル、ヤクソク?」


「はい、それです。ゴブリンさんがあまり人前に出たくないのは、この数日でなんなく分かりました。…僕らと同行すれば、町に近づくにつれ、他の人間に見つかる可能性が上がるでしょう」


「…」


「しかし僕らと共に来て下さるなら、ゴブリンさんは文字の学習をもう一段階先まで進める事が出来ると思います。もちろん、算数も」


「…モット、ワカルヨウニ、ナル?」


「はい、なります。いえ、分かるようにしてみせます。それに僕らには今、身を守る術がありませんから、ゴブリンさんにお願いする他無いのです。どうでしょう?少しだけでも構わないのですが…」


「…マチニ、ツク、スコシマエ、マデ、イイ」


「!ありがとうございます!良かった、断られたらどうしようかと思いました!あぁすいません、すぐ準備しますのでちょっと待ってて下さいね」



…トニックさんは一見気が弱そうに見えますし、実際小心者だと思うんですが…なんというんでしょうか、今思い返してみれば、彼もまた、大概に、(したた)かだったのかもしれませんねぇ。



まぁそんなこんなで、少しの間だけですが、ワタシは彼らに同行する事になったのです。



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