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第十九話「方法」

さて、人間に文字を教わる事にしたワタシですが、まず間違いなく、まともなやり方では教えて貰えないのは分かっていました。



長い時間かけて人間を観察していれば、魔物丸出しのワタシが急に人間の前に現れたらどうなるかくらい、流石に理解していましたからねぇ。



だからといって、全身を隠して出て行ったとしても、“怪しい人物”として警戒されるでしょうし、下手すれば攻撃されかねません。



口が上手ければまた違ったかもしれませんが、あいにくその時のワタシは会話なんて一度もした事がありませんでしたから、まぁ無茶というものです。



“幻覚”の魔法だって万能では無いので、きっと上手くいかなかったでしょうね。



“幻覚”の魔法は“自分の見せたいイメージ”を元に、相手に暗示をかけて錯覚させる魔法なのですが、この“自分の見せたいイメージ”が明確では無い場合、足りない部分を“相手の持つイメージ”から引き出されてしまうのです。


例えばワタシが、“手に一つの赤いリンゴを持っている”というイメージをすれば、相手もその通りに錯覚するわけですが、これを“手に果実を持っている”程度でイメージしてしまうと、それぞれが思い描く果実、個数で錯覚してしまう事になります。



因みに余談になりますが、“幻覚“系統の魔法は相手に直接触れて発動した場合、そうで無い場合よりも強く、確実に暗示にかける事が出来るので、可能ならば触れる事をオススメします。



まぁ、つまりですね。


ワタシは自分の姿を“完璧に全く同じ人間”に見せる自信が無かったのです。



それまでは、自分の姿を元にイメージしてきたので問題ありませんでしたが、全く別の姿に錯覚させようとするならば、それ相応に繊細なイメージが必要でしたので、そういうイメージを一度もした事がなかったワタシにとっては、とても難しい事でした。



一人旅をしている人間を狙えば、とも思いましたが、残念ながらそんな人間は殆ど見かけた事がありませんでした。


見かけたとして、会話が上手く出来なかったでしょうから、失敗していたでしょうね。



幻覚は使えない。

口も上手くない。



何か良い案はないかと考えましたが、大体の場合、その二つの理由で没になってしまいました。



ではワタシは、どのような方法を取る事にしたのか。



平和的な方法がとれないなら、そうではない方法(・・・・・・・・)を取るしか無い。



そう。

ワタシは、暴力的な手段を取る事にしたのです。



相手を脅しつけて無理やり文字を教えさせよう、というわけですね。



…えぇ、短絡的で愚かしい馬鹿な手段だと思いますよ。


ただ、その時のワタシにとっては、それが一番実現可能で現実的な案だったのです。


それに、誰かれ構わず脅しつけるつもりはありませんでしたし、単語を一つか二つ教えて貰ったら、すぐに解放するつもりでした。


人間に暴力を振るうのは基本的に不本意なので、どうしても罪悪感は拭えませんでしたが、文字習得の為には割り切る事も必要だと考えました。



では、ワタシは誰を襲う事にしたのか。

罪悪感が比較的少ない人間とは誰なのか。

割り切りやすいのはどのような人間なのか。



えぇ、そうです。

ワタシは、“盗賊”を襲う事にしたのです。



盗賊ならば何度か手にかけてしまっていましたし、他の人間の敵となる存在なので、まだ割り切りやすいと思ったのです。



そうと決まれば行動は早く、ワタシは森の中を駆け巡り、盗賊を探しました。



そして、探し回って数日後の昼。


ワタシはとうとう盗賊を見つけました。



遠目に確認した限りでは、

盗賊の人数は三人。

盗賊に捕まっている人間が一人。

ついでに、馬車に繋がれた眠っている馬が一匹。

盗賊の狙いは、馬車に積んだ荷物のようでした。



盗賊以外の人間がいたので少し悩みましたが、まぁ見てしまった以上、放っておく気にはなれませんでしたし、問題は無いと判断したのでそのまま実行する事にしました。



脅しつけるわけですから、恐ろしさを演出した方が良いかと思い、ナイフを手に持ち、“認識阻害”の魔法を解く準備をしつつ、近づいていきました。



その場に到着し、状況を確認します。



捕まっていたのは、人間の女性。

顔には殴られた痕があり、手は後ろで縛られていました。


泣き叫ぶ彼女の目の先には、先程まで馬車に隠れて見えなかった倒れこんでいる男性と、その上に座る盗賊が一人。

馬車の中には、荷物を漁る盗賊が二人。


男性は全身ズタボロで、沢山の血を流していました。



悲鳴、血、悪意。



フラッシュバックするあの光景。



…あぁ、コイツラジャナクテイイカ。



目の前にあるチャンスを一度諦める事にしたワタシは、


殲滅を開始しました。


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