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第百九十二話「走馬灯」

暗転。


何も見えなくなりました。



…ふむ。なるほど。これが走馬灯というものですか。


走馬灯とは、人間特有のものなのだと思っていましたが、魔物のワタシでも見るものなのですねぇ。


なかなか興味深い。


こうなればもしかすると、走馬灯とは人間特有のものではない可能性もありますねぇ。生きとし生きる全ての者が見るものなのかもしれません…魔物にしては特殊なワタシだからこそ見たという可能性も確かにありますが…そもそも走馬灯を見る理由とは…


…まぁ、ワタシにはもう確かめる術が無いので、これ以上考えても仕方がないのかもしれませんね。



なんせワタシは、雷に打たれたのですから。



いくら魔物のワタシでも、雷に打たれればひとたまりもありません。


ラナンさんが放ったあの魔術の雷の出来は素晴らしかったので、なおさらですね。


きっとワタシの体は大変な事になっているでしょう。


英雄との本格的な戦闘になる前に、ワタシは“妖精の飲み薬”を飲んではいましたが、あれも万能の薬ではありませんし、雷による全身の火傷が完全に回復し体が元の状態に戻るのは難しいように思います。


ましてや、あの時点でのワタシの魔力は既にすっからかん。


最後の魔術を使えたのだって、フィズさんが持たせてくれたネックレスのおかげですから、魔術の使用中も魔力切れの影響が出始めていて正直かなりギリギリでした。


詰まるところ、あまりにも体の状態が悪い。


仮に今ワタシが居るこの場所が、“あの世とこの世の狭間の世界”だったとして、人によっては奇跡的に生き返るチャンスがあるのかもしれませんが、ワタシが息を吹き返すのは困難を極める筈です。


どう考えても、助かる見込みが無い。


ですからワタシは、間も無く“あの世”へ行く事になるでしょう。



…。



…“死なないで”と言われていたのですけどねぇ。


ペタルには、嘘をつく形になってしまいました。


せめて一言謝りたいですが…もう、それすらも叶いません。



ワタシが感じているこの感情が、おそらくこれが“未練”というものなのでしょう。



…ワタシは、自身のやりたい事さえ出来れば、いつ死んでも良いと考えていました。


しかし長く生きてきて、ワタシは今になって、死ぬのが少し惜しいと、そう思えるようになっていたようです。


思い返せば、色んな事がありましたねぇ。


ゴブリンの村を飛び出してから、ワタシの世界は一変しました。


それまでの生活と違い苦労する事も沢山ありましたが、ワタシは素晴らしい日々を送るこのが出来たと自負しています。


気の向くままに旅をして、思うままに好奇心を満たし、

思う存分思考に(ふけ)り、人間に出会い、魔術に出会い、妖精に出会い、知らぬ知識や経験に出会い、友を得る事も出来ました。


ゴブリン(ワタシ)にしては、とても充実した一生を送る事が出来たように思います。


ワタシは、幸せでした。


胸を張ってそう言える程に、良き一生を送りました。



…あぁ、本当に名残惜しい。


名残惜しいですが


ワタシは満足です。



…おや?向こうの方が明るくなってきましたね。


なるほど。あちらが“あの世”というわけですか。


では、早速向かう事にしますかね。


さて、“あの世”については様々な本で多種多様な書かれ方をしていましたが、実際のところ、“あの世”とはどのような場所なのでしょうか。


人間の間では伝説や噂話として伝わってはいますが、生きている限り“あの世”を見る事は出来ませんから、正確な情報を知っている者は誰も居ない筈なんですよね。


ですが、今から“あの世”に向かうワタシならば話は別。


どの本の描写が一番“あの世”の風景に近いのかを確かめる事が出来るわけですね。


少し、楽しみになってきました。


“あの世”にもワタシの興味が惹かれる物が沢山あるといいのですが…




「」




…?


今、声が聞こえたような…




「ーーーー」





やはり、あの光の向こうから声が、




『「起きて、キミドリ」』


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