第百九十話「厄災の種」
「…!?」
自身の姿を誤魔化す魔法を解いたワタシに、訝しげな顔を向け、何かに気づいたような表情をする彼。
ワタシは自身のフードに両手を入れ、口布を外し、フードを取る。
みるみる内に目を丸くしていくアルトさんを見つめ、ワタシは、口を開きました。
「…それでは改めまして、自己紹介をさせて頂きましょうか』
「え…は…?」
「ワタシの名はキミドリ。種族はゴブリンのウィザード。性別はオスメス両方。いわゆる両性。つまるところ…“英雄”のアナタとは対となる者。“厄災の種”です』
「厄…災…?」
世界を滅ぼす力を持つ可能性のある者。
厄災の種“ゴブリンの両性”。
高い魔力と知性、繁殖力を持ち、ゴブリンのボスとして君臨し、巨大な群れを率いて数多の村や町を滅ぼしてきた歴史を持つ、特殊個体の魔物。
それが、本来ワタシが成る筈だった存在です。
「キミドリ、さんが…厄災…?ゴブリン…?」
「生まれは他のゴブリンと同じく、深い森の中にあるゴブリンの村です。しかし、本能が薄く、理性と好奇心が強かったワタシは、村の在り方に馴染む事ができず、ボス候補として崇められる生活に辟易していました。だからワタシは、全てを捨てて一人で旅を始めました』
「な…そ、そんな話、嘘に決まって」
「嘘だと思うなら魔法を使ったらどうですか?…と、以前にも申し上げた事がありましたねぇ』
ワタシは彼に返事をしながら、また足を前に進め始める。
「全てを捨てて一人旅を始めたワタシは、旅の途中、人間に興味を惹かれ、魔術を知り、妖精と知り合い、いつしか人間の友人もでき、紆余曲折あって今に至ります』
「そんなの、信じられる、わけ」
「さて、アルトさん。ワタシの正体を知ったところで…先程の話の続きをしましょうか』
「こ…こっちに来るな!」
アルトさんの背後から、また光の手が伸びてくる。
しかし、彼が酷く動揺している為でしょうか。
光の手はワタシに当たらず、ワタシの傍をすり抜けていく。
「アルトさん。アナタは自分自身に“こうでなければならない、許されない”という呪いをかけてしまっているように見えます』
「来るなっ!来るなっ!!」
「その呪いはある意味、“不死身の呪い”より厄介で、苦しくて、辛くて、そして強力な呪いなのでしょうね』
「こっちに来るなああぁっ!!!」
「アナタの大事な人達が、アナタにそれを望んでいるとお思いですか』
「っ?!!」
「アルトさんの大事な人達は、アナタをアナタとして見てくれていたその人達は、本当に、アナタに呪いを望むような人達なのですか?』
「それ、は…」
言葉に詰まる彼のすぐ目の前で、ワタシは足を止める。
「…あぁ、そうか。ワタシは今、やっと分かりました。アルトさん、アナタは英雄を辞めたいの願いながら、英雄であり続けるという事に、逃げていたのですね』
「う…あ…」
後退りをして、逃げ出そうとするアルトさんの手を、掴む。
「大事な人々を失った悲しみから、目を逸らす為に』
「はな、離せっ!」
「アルトさん。逃げるのは悪い事ではありません。ですが、今のアナタのその逃げた先には、アナタを苦しめるものしか待っていません。それに…事実からは、いつまでも目を背け続けられるものではありませんよ』
「黙れっ!!!離せっ!!!」
「離しません。アナタの大事な人達の為にも』
「うるさいっ!!!聞きたくないっ!!!」
「アルトさん。アナタは逃げたり隠れたりする事が不得意でしたね。…だから、これから学んで下さい。いつかアナタが、大切な人達から目を逸らさず済むように』
ワタシの手を振り払おうと暴れるアルトさん。
ワタシは、そんな彼の手を離さぬように、しっかりと手に力を込めながら、ローブの中で準備していた一つの魔術を発動させました。




