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第百八十話「荒野」

「ハァッ…!ハァッ…!」



大地は、魔力の爆発により草一本すら無い荒野と化し、魔物は一体残らず消滅。


辺りには爆発の残り香のような、英雄の魔力が充満している。



「くっ…!」



ナイフを握り締めたまま、荒れた大地に座り込むワタシ。


ワタシ自身の魔力の殆どを一気に使ってしまったが故に襲いくる、頭痛、眩暈、動悸。



「キミドリさんっ!!」



そんなワタシに駆け寄ってきて下さる、明時の空の方々。


少し疲労の色が見られるものの、彼らに、新たな傷の一つも付いていない。


えぇ、そうです。


ワタシ達は、あの魔力の爆発から生き残る事が出来たのです。



「全く無茶をする…怪我は無いか?」


「えぇ、ギルベルトさん。魔力の使い過ぎで、少し、クラクラするだけですよ」


「大丈夫では無いな…」



見れば、ギルベルトさんの顔色がほんの少し悪い。


“ビースト・アクト”を数十秒連続で使っていたのですから、それも当然の事。


ギルベルトさんが唯一使える魔法“ビースト・アクト”は、通常の身体強化魔法と比べて、遥かに強い力と五感を得る代わりに、体に大きな負担をかけ、魔法の使用中、術者の凶暴性が増してしまう魔法です。


長時間の使用は術者の体と精神を蝕む為、精神の弱い者が使えば魔法に呑まれ、あっという間に暴走してしまいます。


数十秒連続で使い、ほんの少し顔色が悪い程度で済んでいるのは、体も精神も強靭なギルベルトさんだからこそと言えるでしょう。



「ギル、回復魔法、かけるわね。キミドリさんも、魔力回復薬を、飲んだ方がいいわ」


「えぇ。そうですね」



チャロアさんに促され、トニックさんから頂いていた魔力回復薬を飲み干す。


飲んですぐに、体に魔力が満ちていく。


トニックさん達は、かなり上等な薬を下さったようです。


これなら、完全回復とは言えないものの、かなりの魔力が回復してくれるでしょう。


後は、妖精の飲み薬の効果と合わせて、体調も良くなって来る筈。



「それにしても驚いたよ。まさか、あの魔力の爆発を切っちゃう(・・・・・)なんてね」


「なー!ビックリしたよなぁ!やっぱ師匠はスゲェなぁ!」



そう言うファルケさんとラナンさんの視線の先には、大地に刻まれた、一筋の太い線。


ファルケさんの言うとおり、ワタシはノーム製のナイフでもって、襲いくる高密度の魔力の爆発を切り開き、前方に伸びる一本の道を作ったのです。


ワタシは、刃渡り以上に物を切り裂き、英雄の魔法すら切ってみせ、場所さえ見極めれば、空間をも切り開くノーム製のナイフならば、きっと魔力の爆発も切れると考えました。


だから、ナイフの力を最大限引き出す為に、ワタシのありったけの魔力を込めて、ナイフを振るったのです。


ノームの御三方が作ったナイフなら、きっと切ってくれると信じて。



ですが、ワタシ達が傷の一つも無く助かったのは、それだけが理由ではありません。


ワタシは、ラナンさんの肩を借りて立ち上がりながら言います。



「…ワタシの力ではありませんよ。ワタシ達が助かったのは、このナイフと…ペタルのおかげです」



ワタシがナイフで高密度の魔力を切り開いた後、出来た一本道が閉じてしまぬように爆風を操り、ワタシ達に被害が出ないようにしてくれたのは、紛れもなく、ペタルの仕業でした。



「貴方のおかげです。ありがとうございます、ペタル…ペタル?」



ペタルから返事が無い。


それどころか、フードの中にいる筈の彼女の気配がやけに薄い。



「…っ!まさかっ!」



慌ててフードに手を突っ込み、ペタルを取り出す。



「!やはり、ペタル貴方…体を構成する魔力まで使って…!」


『…』



ワタシの(てのひら)の上で、グッタリとしているペタル。


彼女は、ワタシから引っ張ってこれる魔力が殆ど無いと分かり、自身の体を構成する魔力すら使ってワタシ達を守ってくれたのです。


幸いにも、彼女はワタシと契約している為、ワタシから彼女に魔力を流し込む事が出来る。


ワタシは、すぐにペタルに魔力を流し込みました。



『う…』


「ペタル!」



魔力を流し込み始めて少しすると、ペタルは意識を取り戻しました。



「良かった…すみません。ワタシが無茶をしたばっかりに、貴方にまで負担をかけてしまいました…」


『…いいわよ。なんとなく、こうなるって分かって、た…し…』

バッ!



意識を取り戻し、話し始めた直後。


ペタルは目を丸くしていき、青ざめ、荒野の中心を見ました。



「ペタル…?」


『…て』


「?」


『止めて…今すぐ、アイツ(・・・)を!止めてっ!!』



叫ぶ彼女にそう言われ、ワタシは、急いで荒野の中心地、英雄の居る場所に目を向けました。


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