第百七十九話「爆発」
ワタシが彼らに呼びかけてすぐ、彼らは動き出していました。
「“マジック・バリア”、“フィジカル・バリア”、“キープ・バリア”!」
チャロアさんは、何処からか大量の触媒を取り出し、地面に座り込み、聞いた事も無い程の早口で魔法の名を唱える。
「“ビースト・アクト”!!」
ギルベルトさんはチャロアさんの前に立ち、大剣を自身の前の地面に突き立て、構え、魔法を使い、自身もろとも爆発の衝撃を受け止める壁となる。
「“フィジカル・バフ”!!!」
ラナンさんは、ギルベルトさんとチャロアさんの間に滑り込み、ギルベルトさんに背中を向け預けつつ、槍をチャロアさんより後方の地面に斜めの角度で突き立てて、彼女もまた魔法を使い、吹き飛ばされぬよう衝撃に備える。
「くっ…!」
唯一魔法の使えぬファルケさんは、彼らの最後方に回り込み、チャロアさんを後方から支えるような姿勢でしゃがみ込みつつ、地面に刺さっているラナンさんの槍を掴む。
“マジック・バリア”はあらゆる魔力を弾き、“フィジカル・バリア”はあらゆる物理を弾き、“キープ・バリア”はバリア内の環境を維持する半球状の障壁魔法。
それらの魔法を触媒を用いて一つの魔法として扱い、詠唱を省略した上で、更に魔法の強度も上げている。
チャロアさんを中心として集まり、出来るだけ小さく纏まって魔法の効果範囲を最小限に留めつつ、いざという時はギルベルトさんがタンクとしての役割を請け負う。
この間、たったの3秒程。
大規模な魔力の爆発からとっさに身を守る手段としては、おそらく最適解なのでしょう。
「キミドリさんっ!!」
ファルケさんが呼び込むように、ワタシの名を呼ぶ。
彼は、ワタシをチャロアさんと同じ位置に引き込むつもりのようでした。
ですが、ワタシが行くべき位置はそこではない。
「なっ…?!」
ワタシはギルベルトさんの前へと位置取りました。
正面からは爆風が迫ってきている。
驚きの声をあげるギルベルトさんを他所に、チャロアさんの障壁魔法がワタシ達を包む。
ワタシはその障壁魔法より前方、爆風が襲いかかってくる方角に向け、障壁の魔術を三枚 展開。
更にそれらの魔法、魔術の上から、あらゆる衝撃を緩和する魔術を発動する。
ドォッ!!!!!
直後、訪れる爆発の衝撃。
ビシリッ!!バリンッ!!!
衝撃に耐えられず、障壁の魔術が一枚、即座に割れる。
ワタシは分かっておりました。
これでは防ぎきれないという事を。
ピシピシピシッ!!バリンッ!!!
続いて割れる二枚目。
ワタシは、手加減されていたであろう英雄の魔法さえも、魔術では防ぐ事が出来なかったのです。
その英雄が起こした大規模な魔力の爆発を、どうして防げましょうか。
ピシピシ、ピシッ…!!!バリンッ!!!
三枚目。
残る障壁は、チャロアさんが発動したバリアのみ。
それも長くは保たないでしょう。
ワタシは懐から“妖精の飲み薬”を取り出し、少しでも魔力を長持ちさせる手段として飲み干す。
そして、ノーム製のナイフにありったけの魔力を込めました。
ピシ、ピシ…ピシ……ピシ……。
ヒビ割れ始めるチャロアさんのバリア。
魔力の爆発は、爆風は、まだ収まらない。
辺りはまだ光に満たされ、何も見えない。
最も衝撃が強いと思われる瞬間を抜けたにせよ、今この状況で外に放り出されれば、ただでは済まないでしょう。
ビシリッ…!
バリア全面が、ヒビで覆い尽くされる。
ワタシはナイフを両手に持ち、頭上に掲げました。
どうか、上手くいきますように。
どうか、ワタシ達を、彼らを守って下さい。
バリンッ!!!
ワタシはそう願いながら、ナイフを力いっぱい、振り下ろしました。




