第百七十六話「跳ね除ける。振り払う」
森の中を走る。一塊となって走る。目的地へ向け走る。
向かう先は、最前線。スタンピードの最前線。
バチィッ!!
チャロアさんのバリアに弾かれ、姿が露わになる影の魔物がまた一体。
「やっ!!!」
チャロアさんの左側を走るラナンさんが槍で一線。
一撃で影が掻き消える。
「ふっ!!」
チャロアさんの右側を走るギルベルトさんが大剣で一線。
バリアに弾かれる前のシャドーマンが、姿を現すと同時に掻き消える。
姿を消そうが実体が無かろうが関係無く、ホーリー・バリアを潜り光の粒子を纏った武器が、次々とシャドーマンを葬り去っていく。
ヒュッ!スパンッ!
先頭を走るファルケさんの弓矢が、遠くの魔物を仕留め消し去る。
目の良い彼が、ワタシ達の行く道を先導し、必要なだけ、最低限だけ弓を撃つ。
殿を務めるのは、恐れ多くもこのワタシ。
「右前方。二体の魔物が接近してきています」
闇魔法で周囲を広く探知し魔物の位置を伝え、身体強化の魔術を全員に施し、出来る限り、全体の負担を軽くするよう努める。
“心身の状態を保つ”という妖精の飲み薬の効果の為か、体力や魔力の回復も早く、ワタシの施した魔術と相まって、ワタシ達は疲れ知らずの一団となっていました。
既に浪費した薬の効果時間を考えれば、おそらく、目的地に到着するまでの時間しか保たないとは分かっていましたが、その間だけでも体力と魔力を最大限残しておけたのは、嬉しい誤算でした。
走り始めて、いくらか経った頃。
「…!」
ワタシの探知に引っかかる、人型の何か。
シャドーマンと違い輪郭はくっきりとしており、動きがやたらと遅い。
それが、前方からやってくる。
「ギルベルトさん。前方に人型。おそらくは…」
「…そろそろか。チャロア」
「は〜い。“ホーリー・バフ”」
ギルベルトさんに名を呼ばれ、また触媒らしき物を取り出して、魔法を発動させるチャロアさん。
チャロアさんの手元の触媒から発生した、キラキラと輝く薄い煙がワタシ達を包み、ワタシ達の武器や装備、指の先に至るまで、コーティングするように魔力が覆ってくるのが分かる。
対闇属性の魔物に効果が高い、光属性が付与される。
そうしている間に、やがて前方からやってくる人型が見えてくる。
「…っ」
一見すれば、ただの人間。
動きが遅いだけの、森を彷徨うただの人間。
しかしその姿は血に塗れており、身体中を激しく損傷している。
肌に血の気は無く、目は虚ろでどこも見ていない。
あれが、
「…アンデッド」
正確には、魔物名“ウォーキング・デッド”。
名前の通りの、歩く死体。
元は人間の、もはや人では無い者。
魔物。
「…」
グッ…
静かに顔を歪ませ、苦しそうな表情をし、大剣を握りしめるギルベルトさん。
そのまま彼は、大剣を構える。
ワタシ達は、そのアンデッドの左側へ走っていき、そして。
ザンッ!!
ギルベルトさんの腰程の高さにあった、そのアンデッドの首を刎ねる。
首を刎ねられたアンデッドは、その場に崩れ落ち、刎ねられた首からチリへと変わっていきました。
「…前を見ろ!!!進め!!!」
何かを振り払うように、大きな声でワタシ達を激励するギルベルトさん。
ワタシ達は崩れていく小柄なアンデッドを後にして、目的地へと走り続けました。




