第百六十九話「問う」
「では、僕からの説明は以上です。他に聞きたい事等がなければ、皆さんこの薬を」
「お待ち下さい」
一通りの説明を終え、薬を配ろうとするトニックさん。
ワタシはそれに、待ったをかけました。
「どうしましたか?キミドリさん」
「どうしたも何も…」
ワタシは、同行を許可していない。
そう、ワタシまだ誰の同行も許可していませんでした。
ワタシは、まだ一人で英雄の居る場所へ向かうつもりでいたのです。
「皆さん、本気ですか?これからワタシが向かおうとしているのは、スタンピードの最前線、死地と言っても過言では無いとても危険な場所なんですよ?」
…正直なところ、ワタシは皆さんの協力を申し出てくれる事自体は、とてもありがたいと思いました。
ですが、トニックさんにも言ったとおり、ワタシが向かおうとしていたのは、死地と言っても過言ではない場所。
当たっているかどうかも分からない勘を頼りに、ワタシのワガママでその死地に向かおうとしているだけなのです。
そんな条件で彼らを連れて行き、もしもの事が起こってしまった場合など…考えたくもありませんでした。
「どうか考え直して…」
『アンタまだそんな事言ってんの?』
ワタシの発言に被せ、ペタル口を挟みました。
「ペタル」
『アーシがここまで譲ってやってんだから素直に受けとんなさいよ。アーシの事も。コイツらの事も。…まだ一人で行くつもりなんだったら、アーシ、今度こそ本気で止めるから』
睨むような目つきでそう言うペタル。
そんなペタルに続き、今度はギルベルトさんが口を開く。
「オレは、いやオレ達は、キミドリさんの意思を尊重したい。…だからこそ、言わせてほしい。これから向かう場所が死地だと分かっているなら、尚更オレ達を連れて行ってくれ」
「…ですが」
「行って、何もないならそれでも良い。だが何か問題があった時、アンタ一人で背負うより、オレ達で手分けして背負った方が解決しやすい。違うか?」
「違い、ませんが」
「それにな、キミドリさん。アンタの言う事が正しいなら、このアウロラの町も危ないんだろう?この町を守りたいと思っているのは、アンタだけじゃない。オレ達もだ。だから頼む。オレ達にも、このアウロラを守る機会をくれ」
「…っ」
「頼む」
なんとズルい頼み方をするのだろうと思いました。
ギルベルトさんは分かっていて、そのような頼み方をしたのでしょう。
それが、ワタシが断りづらい頼み方だと、分かっていまつそう言ったのでしょう。
そんなギルベルトさんに続き、今度はトニックさんが口を開く。
「キミドリさん」
「…トニックさん」
「諦めましょう。貴方は、貴方が思っている以上に、沢山の人に好かれているんです。ほら、前にも言ったでしょう?貴方は、貴方を過小評価していると」
「…そう、でしたね」
「だからどうか、僕らにも協力させて下さい。この町の為に、貴方の為に、そして僕らの為に」
「…」
ワタシは、もっと自覚するべきでした。
ワタシは、多くの人に好いてもらっているのだと。
ワタシは気づくべきでした。
ワタシ自身を大切にしない事は、その好いて下さっている人達の気持ちも、大切にしない事なのだと。
ワタシは以前、フィズさんに言われました。
もっと自分を大切にして下さいと。
ワタシは、自身の為に、ワタシを好いて下さっている人達の為に、もっと自身を大切にするべきでした。
ワタシは、ワタシを大切にする為に、ワタシを助けて下さる方々の為にも、ワタシは、もっと人に頼っても良かったのです。
ワタシは口を開きました。
「…先程も言いましたが、ワタシがこれから向かおうとしている場所は危険極まりない、スタンピードの最前線です。ワタシの勘が正しければ、これから、これ以上に、何か大変な事が起こります」
彼らを見渡し、言葉を続ける。
「…それでも、それでもワタシのワガママに付き合ってくれるのなら、協力してくれるのなら、どうか、ワタシに皆さんの力を貸して下さい。どうか、お願いします」
彼らに対し、助けを乞う。
そんなワタシに対し、彼らはやれやれとでも言いたげな表情をして、それぞれに顔を合わせる。
彼らの答えは、決まっていました。




