第百六十四話「言い争う」
『もう、ほんっとにヤダ。ほんっとにムリ。アーシがダメって言ってんのにっ…!』
「それを決めるのはオレ達でも、ペタルさんでもない。キミドリさんだ」
『でもアイツんとこ行ったらキミドリ死ぬのよ?!命の恩人ってんなら止めなさいよ!』
「それは一人の場合だろう。それに、命を救われたからこそ、だ。オレはキミドリさんの意思を尊重したい」
言い合いをするペタルとギルベルトさん。
ペタルに譲る気は無く、ギルベルトさんも当然譲らない。
辺りには変わらず魔力の花弁が舞い、風も強く吹いている。
このままの状態が続くのであれば、その内に人の目につき始める。
早々に場を納めなければ。
そう思ったワタシは、ギルベルトさんに言いました。
「…ギルベルトさん。申し出は大変ありがたいのですが、今回ばかりは、協力いただけません」
「…なぜ?」
「確かにアナタ方と行けば、ワタシは命を拾えるかもしれません。しかし…それでは間に合わないのです」
「間に合わない…?」
「えぇ」
アンデッドの足は遅い。
人間が一日で歩いて行く距離を、アンデッドは数日かけて歩く。その程度には遅い。
つまり今回、アンデッド達が数日後にアウロラに辿り着くという事は、距離としてはそう遠くはない。
ワタシが一人で森を駆けて行けば、アンデッドの群れが居る場所まで、数時間もあれば着く事でしょう。
魔法や魔術を使えば、更に短い時間で着く事も可能だと思われます。
ですが、ギルベルトさん達と向かった場合はそうはいかない。
どれだけ急いでも、一日はかかるでしょう。
仮に馬車を使ったとしても、数時間縮まる程度。
ギルベルトさんは、英雄に追いつくのには十分に間に合うと踏んだようですが…それは彼が英雄の実力を知らないが故の事。
おそらく、アルトさんは既にアンデッドの群れと交戦している。
転移魔法を易々と使ってみせた彼ならば、十分ありえる可能性でした。
「ワタシ一人で向かった方が目的地まで早く着きます。ワタシは、急がなければならないのです」
「だがそれでは…」
『だから行かせないって…!』
ギィ。
バタン。
扉が開き、閉まる音。
ワタシは、扉の方に目をやりました。
「…」
「…フィズさん」
そこに立っていたのは、フィズさんでした。
「…ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、お話、聞こえてきちゃった」
「いえ、こちらこそすみませんフィズさん。少々騒ぎ過ぎましたね。すぐ静かにしますので…」
「…私、思ったんですけど」
「?」
「要は、キミドリさんとギルベルトさん達が、皆まとめて早く着けばいいんですよね?」
「まぁ、そうですが…」
ワタシがそう言うと、フィズさんはペタルに向き直りました。
「ペタルちゃん」
『…何よ。フィズちゃんまでアーシの邪魔するつもりなの?だったらアーシ、容赦しな』
「私、思ったんたんだけどね?」
『…何よ』
「ペタルちゃんなら、キミドリさん達の事、連れて行ってあげられるんじゃない?英雄さんのところまで」
『…』
ペタルは黙り込み、フィズさんの方をじっと見ました。




