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第百五十二話「一つ目の理由」

『まず、一つ目の理由ね』


「そんなにいくつもあるんですか?」


『二つだけよ。まずね、ここより遠い所に出ようと思ったら、アンタの体が保たなそうだったから、よ』


「ワタシの…?」


『そ』



ペタル曰く、一般的な生物に比べて、ワタシの体は“なりそこない”の中で変異しやすくなってしまっているのだそうです。


知っての通りワタシが妖精と契約している為に、変異しやすくなっている…という理由も有るそうなのですが、どうもそれだけではないようでした。


一言で言えば、“なりそこないの中に居過ぎた為”。


物質的な体を持ちながら、長くなりそこないの中に留まった結果、どうやらワタシの体は、なりそこないという妖精界に程近い空間に馴染んでしまった、との事でした。


つまり、馴染んでしまった故に、なりそこないの中の影響を更に受けやすくなってしまっていたのです。


比較的に安定していたとはいえ、なりそこないの中に、あの礼拝堂のある空間に留まりすぎたのが原因でした。



『だからぁ、あの“道”を通ろうと思ったら、あんまり遠くには行けなかったのよねぇ。近道っぽい近道もなかったしぃ』


「だからここに来た、と?」


『そうねん。森の方まで行ってたら、多分ヤバかったし』


「…体調不良で動けなくなっていた、という事でしょうか?」


『運が良くてね』


「…なるほど」



礼拝堂を出てから今まで、ペタルはワタシの体に(さわ)りが出ないように、なりそこないの中を通る際は、ある程度の選別をしてくれていたのだと、この時初めて知りました。


まぁ、ペタルにとっては大した手間ではなかったのかもしれませんけどね。



「あの、ペタルさん」


『なぁに?トニックちゃん?』


「“ここより遠い所に出ようとしたら”と仰っていましたが、もしかして、ここより近い所もあったのでしょうか?」


『えぇ。あったわよ』


「では尚更、何故フィズちゃんの部屋にやって来たのですか?」


『アイツが追ってこれなくなるからよ。それが二つ目の理由ねん』


「…アイツ、というのは、もしかして」


『アンタ達がえいゆーって言ってる人間の事よ』


「やっぱり…」



ペタルは話を続けました。



そもそも、ワタシが彼から逃げきれなくなった理由。


それは、彼がワタシに執着し、彼に追跡の魔法を掛けられてしまったからです。


今回のように、魔法から伸びる魔力の糸を切ってから、なりそこないの中に入る事も考えたのですが、それも一時凌ぎにしかなりそうにありませんでした。


なりそこないは、こちらの世界と妖精界の間の空間。


空間ごと断絶されれば、流石に魔力の糸も繋がりようがありませんが、これがそうも上手くはいきません。


こちらとあちらの境界線の薄い場所から、魔力の糸が繋がってしまう可能性があったのです。


彼ならば、その境界線の薄い場所から無理矢理に入ってくる事も出来るでしょう。


あの礼拝堂のように、辿る道筋さえ合っていれば、誰でも入れてしまう場所なら尚更です。


だからこそワタシは、追跡の魔法を打ち消すか、或いは魔力の糸を完全に断ち切る方法を探す為に、トニックさんに相談したのです。



『でもぉ、それってちょっと時間かかるくない?トニックちゃん』


「そうですねぇ…おそらく、それなりの準備が必要になるでしょうから、時間はかかるかと思います」


『でしょう?その間にもアイツ付き纏ってきそうでヤだったしぃ、なんか良い方法ないかなーって思ってたのよねー。で、思い出したのよ。ここ(・・)の事』


「…あ、そっか。私の作業部屋だったら」


『そ!ここって、結構特殊じゃない?アーシでも(・・・・・)通り抜けられない(・・・・・・・・)外から中が(・・・・・)見えない(・・・・)部屋(・・)!思い出したアーシえらくない?』



“部屋の外から中が見えにくい”。


ワタシは以前フィズさんから、作業部屋の事をそう聞いた事がありました。


それは、部屋のある場所や、構造的な話だけではありません。


魔法や魔術を使っても中が見えにくい、魔力を通さない部屋(・・・・・・・・・)、という意味でもありました。


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