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第百四十七話「本気」

ドガガガガガッ!!ザンッ!!ギチィ!!ブチブチブチッ!!サンッバフンッパァンッ!!



地面を、壁を、走り回るワタシを追いかけまわす光の手。


避け、切りつけ、黒荊棘で縛りつけ、引き千切られ。


魔力の糸を断ち、“闇雲”を放ち、魔法で彼を眠らせようと近づき、勘づかれ、形になる前の魔力ごと弾かれる。


彼はワタシを捕まえる為に。

ワタシは彼から逃げる為に。


なのに。彼はワタシを捕まえられず、ワタシは彼から逃げきれていない。



彼が手加減していたのか、はたまた奇跡的に互いの力が拮抗したのか…ともかくワタシ達は、一進一退の攻防を繰り広げる事になりました。


互いに決め手に欠け、あと一押し足りないような状況でしたが、依然ワタシが不利な事に変わりありませんでした。


無尽蔵に思える程の魔力を持つ彼に対し、ワタシの魔力は有限。


その上、彼は殆ど動いていないのに対し、ワタシは動き回り体力を消耗し続けていました。


時間をかければかけるだけ、ワタシが不利になる。


ですが、そんな状況の中でも、僅かながらワタシにも勝機がある事も分かっていました。


彼の行動を観察していて思ったのです。



もしや彼には、“眠りの魔法”が効くのでは?


と。



眠りの魔法は精神に干渉する魔法。

つまり精神魔法に分類されるのですが、この精神魔法というのは、精神が不安定な者ほどかかりやすいのです。


厳密に言えばそれも少し違うのですが、まぁ、殆どの場合はかかりやすいという事だけ分かっていれば、ひとまず問題ありません。


もちろん、魔法防御力が高ければその限りではないのですが…ワタシの闇魔法であれば、彼の魔法防御を突破できそうに思えたのです。


ワタシが眠りの魔法を発動する前に、彼は必ず邪魔をして、魔法を発動させないようにしてきました。



つまり、精神魔法を使われる事を嫌がっている。



ワタシはそのように判断しました。


でなければ、効くわけのない魔法の発動をわざわざ邪魔する理由はありませんからね。


ですからワタシは、自身が使える闇魔法の内で、最も眠りの効力が強い“睡魔”を彼に触れた状態で発動し、彼を眠らせる機会を伺いました。


あまり効かずとも、魔法の効果で少しでも視界が揺れてくれれば、その一瞬の隙に逃げられる自信はあったのです。



しかし流石英雄、隙が無い。



バッ!!カァンッ!!ズドドドドッ!!



彼の視界を黒荊棘で遮り、逃走しようとして、失敗。


光の壁がワタシの行手を阻み、ナイフで光の壁を切り付ける前に、光の手が押し寄せる。



やはり、眠らせる必要がある。


どうにかして隙を作らなければ…あるいは、



そう思った直後、彼が空に向かって何かを投げる。



魔力は感じない。

魔法ではない。

あれは…手鏡?

それもただの手鏡ではない。

宝石が散りばめられた、かなり高価そうな手鏡。



彼は一体、何を…?



ワタシの疑問を他所に、太陽光(・・・)の中に投げ出された手鏡が落ちてくる。


光を受けた手鏡は、散りばめられた多くの宝石と共にキラキラと輝き、辺りに光を落とす。


とはいえ、影に満ちた路地に落ちてくる事はない。


光を拒む“夜水面”の効果で、地面や壁に広がった影の上に光は落ちてこない。


光が落ちてくるとすれば、夜水面の効果が及ばない所。


例えば、地面や壁に接せず宙に浮いているもの。

例えば、夜水面と切り離されている影。


例えば、影の上を動き回るもの(・・・・・・)



そう、例えば、ワタシのローブの上。



「しまっ…!!」



時既に遅し。


ワタシのローブの上に落ちた光から細い光の手が伸び、走っているワタシの足を瞬間的に絡めとる。


細い光の手はすぐに消えてしまったものの、ワタシはバランスを崩し、地面へと倒れ込んでいく。


倒れ切る前に体勢を立て直そうとして体を捻り、一瞬立ち止まってしまう。


そのような隙を見逃してくれる筈もなく、大量の光の手がワタシめがけて押し寄せてくる。


咄嗟に黒荊棘で防御しようとするも、防御仕切る前に荊棘の隙間をこじ開けられ、ギチギチと音を立てながら雪崩れ込んでくる。


右手に、左手に、足に、体に、首に巻き付き、掴まれる。



「捕まえた」



彼が、近づいてくる。


防御に使った黒荊棘は引きちぎられ、既に消滅している。


ならばと、辺りの黒荊棘で対抗しようとして、



ギチッ…

「ギッ…!!」



首に巻き付いた光の手が、ワタシの首を絞める。


かろうじて首と光の手の間から黒荊棘を生やしたものの、首を守るには至らず、押し負ける。


そこで、ワタシの集中は途切れてしまったのでしょう。


辺りに広がっていた夜水面が掻き消え、同時に、這い回っていた黒荊棘も消滅してしまいました。



「あぁ良かった。捕まってくれてありがとう」



一歩、また一歩とワタシに近づいてくる彼。


体は指一本動かず、首が絞まり、徐々に意識が薄れていくワタシ。



「そうだ。せっかくだし、顔を見ておこうかな。ずっと気になってたんだよね。大丈夫。ボク達だけの秘密にしておくから、ね」



薄れゆく意識の中、彼がワタシのフードの中に、手を伸ばしてくるのが見えました。


9月25日追記

諸事情により、次回はおやすみさせていただきます。

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