表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/196

第十三話「ツキノ村」

…ちょっとした騒ぎとは言いましたが、思い返してみれば結構大きな事件だったんですよねぇ。


子供三人が行方不明になって、沢山の大人達が彼らを探して嵐の中を歩き回ったんですから、そりゃあそうですよねぇ。


ワタシが村を出るまでで考えても、かなり騒ぎになった方だったと思います。



いや失礼。

当時は覚悟こそしたものの、事件としてはそんなに大した事は無かったと思い込んでいたもので…振り返ってみて、ようやく事の重大さに気が付きました。


ワタシはこれまでずっと、好奇心の(おもむ)くままに進んできましたので、ごく稀に思い出すような事はあっても、後ろを振り返ってみようだなんて、考えた事も無かったのです。


ヒマな時間があっても、興味の湧いた物事について考えを巡らせるばかりで、自分自身についてはそれほど気にかけてこなかったように思います。



当時の認識を改める為にも、今後はもう少し、過去を振り返ってみるとしましょう。



さて、あの騒ぎが収まって、ワタシはまた以前と同じ平和な日々を過ごしていました。



ツキノ村に住み着いてから時は経ち、ワタシは人間の言葉をほぼ完全に理解できるようになりました。


(つたな)いながらも、少しなら喋れるようにもなったので、この頃は自分がどれくらい会話ができるのかを試したけてウズウズしてましたねぇ。


人間の“文化”についてもある程度把握できたので、多少ならば、誤魔化しながらでも話を合わせる自信がありました。


まぁ、これも若さゆえの謎の自信だったんでしょうね。



あと、身体的な話をすればご存知の通り、ワタシはあの事件の頃にはすっかり身長が伸び切り、人間の大人サイズになっていました。


体は大きくなり、筋力も大幅に増えた為か、より身のこなしは軽くなり、狩りの効率も上がりました。


まぁ村から()びた刃物をくすねてきたおかげでもありますが。やっぱり刃物が無いとかなり不便でしたからねぇ。


それに、魔力量と魔法技能も向上し、使える魔法の数も増えたので、そもそも獲物に全く気づかれなくなったから、というのもあると思います。


能力が高くなるとツキノ村での隠密行動がしやすくなるので、非常に助かりました。



…あぁそうえば、新しい魔法を試してみたくて、色々やってる内に、うっかり獲物のシカを見失って、ツキノ村へと逃してしまった事もありましたねぇ。


あの時はどうしようかと思いましたが、畑仕事をしていた村人の手でアッサリと仕留められた上に、さっさと捌かれて皆さんの夕食にされちゃったんですよねぇ。


まぁ結果オーライです。



ふむ、思い返せばあの事件以降も、事件とは言わないまでも、ほんの些細(ささい)な騒ぎくらいならいくつもありましたねぇ。



そうですねぇ、例えば…


カイト、カザミ、ライの三人組が、ワタシのいたボロ小屋を占領し始めたりとか、それが見つかって何故か大人達にしこたま怒られていたりだとか。


村長がギックリ腰になったり、なんてのもありましたねぇ。

村人全員が順番に見舞いに行って、町から医者を連れてきたりもしたんでしたっけ。

医者のやる事に興味は湧きましたが、何をやってるかはさっぱりわかりませんでした。


あっ幼子に腰布を取られた事もありますねぇ。

なんとかなりましたが、危うくバレるかと思って冷や汗をかきましたよ。


村の畑にモグラのモンスターが湧いた時には、ツキノ村一丸となって、数日がかりで駆除してました。

少々心配ではありましたが、危険度はあまり高くないらしかったので、普通にただの村人でも対処できるみたいでした。


あぁそれに、村の力自慢の青年が、意中の女性に大々的なプロポーズをした日には、村全体が盛り上がりました。

因みに返事は、YESでした。


新しい命が誕生した時には、村人皆が祝福して、幸せな空気に包まれていました。



収穫祭は毎年行われて、年末にはささやかに新しい年を祝い、春には暖かな季節に感謝して、宴会が開かれた事もありました。



子供達は変わらず元気で、

村人達はいつでも、共に笑いあっていました。


ツキノ村には楽しい事が、沢山ありました。


学べる事が、沢山ありました。


興味深い事が、沢山ありました。


思い出せば思い出す程に、平和で、充実した日々でした。


もう少し、まだもう少しと、一人旅の再開を先延ばしにして、気づけば季節が三度も巡っていました。


もういっそこのまま、ずっと住み着いてしまおうかと考える程に、楽しい日々でした。



本当に、本当に手放し難い、楽しい日々を過ごしたのです。




そう、あの日までは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ