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第百三十五話「眺める」

夜。


空に星が満ち、月が高く見える頃。



「…」



ワタシは塔の上から、まだまだ静けさからは程遠いアウロラの町を眺めていました。



フィズさん達とジンジュレップに戻った後、ワタシはいつものように、彼らの家に泊まる事になりました。


本当は、その日は泊まるつもりはなかったんですけどねぇ。


翌日もまだお祭りでしたから、お店が忙しいだろうと思い遠慮する予定だったのです。


ですから、ベルさんが眠っている隙にコッソリ家を出ようと思ったのですが…丁度起きてきたベルさんに見つかってしまいましてねぇ…後はお察しの通りです。



「…ふふ」



屋台で購入したパンプアップ・バイソンの串焼きを一齧りし、じっくりと町を観察する。



あぁ、ワタシが塔の上にいた理由ですか?


なんて事ありません。


ただ、昔を少し思い出したので、祭りに賑わう夜の町を観察したくなった。


それだけの事です。



『なに笑ってんのよ?』



ワタシの肩に座り、ペタルはワタシに話しかけてきました。



「いえ、何でもありませんよ」


『何よー?またそれー?もー教えなさいよー』


「んー…まぁ、そうですねぇ。強いていえば、あれですかね」


『えー?どれよー?』


「ほら、ワタシの指の向こうです。ここから真っ直ぐに見える広場の真ん中で、上半身裸に頭からバケツを被りスキップしつつ左手に猫を抱え右手ではその辺の人とハイタッチして周っている、あの男性ですよ」


『うわ何あれウケる』



そんなやり取りをしつつ、ワタシは賑やかな町を見下ろし、そして、改めて思いました。



あぁ、楽しかった。面白かった。満足した。

これもまた、忘れられない思い出になるのだろう、と。



『…』



ふと気がつくと、ペタルがワタシの方を向き、何か言いたげな表情をしていました。



「…どうかしましたか?」


『…あのさ、キミドリ』


「はい」


『アンタさ


  …死ぬの?』



「…」



…ワタシと契約しているから、でしょうね。


ペタルは、ワタシの体の変化に気がついていたようです。



「…えぇ。そうですね。おそらく、そう遠くないと思います」


『…そう』



つまらなそうに、素っ気無くそう返すペタル。



“寿命の近いゴブリンは、急激に体が老いていく”



ワタシが読んだ本の中に、その様な文章がありました。


あれは確か、魔物の研究に関する本だったと思いますが…おそらく、正しいと思います。


近頃、少し体が重い。

近頃、少し体力が落ちてきている。

近頃、少し筋力に衰えを感じる。


…少し前までは、無かった事です。


今はまだ少し違和感がある程度で済んでいますが、ワタシはこれから、本に書かれていた通り急激に老いていくのでしょう。



「…ペタル」


『…』


「ペタル」


『…何よ』


「ワタシを人間の町に連れ出してくれて、ありがとうございます」


『…』


「ワタシだけでは、このような体験は出来ませんでした。…ペタルのおかげで、ワタシはとても楽しく過ごす事が出来ました。貴方に出会えて、良かった」


『…知らない』



そう言ってペタルは、そっぽを向いてしまいました。


…少しは、寂しいと思ってくれたのでしょうね。



「…」




ワタシは、一度 目を瞑った後、夜空を見上げました。


ワタシの目に映るのは、満天の星空。


赤く煌めき、青く煌めき、白く煌めく星々と、

彼方に見える、輝く月。


そして、眼下に広がるのは、眠りを忘れた沢山の町明かり。



夜が更けていき、ワタシは思います。



寿命が尽きる前に、人間の町から離れなければ、と。



ワタシは夜明け近くまで町を眺め、そして、翌日の朝、トニックさん達にお礼を言って、ワタシは住処の洞窟に帰っていきました。



…その時が来たら、トニックさん達にも、キチンとお別れを言いませんとね。



さて、それから少し時は経ち、祭りが終わってから数日後。


ワタシが、洞窟内の大掃除を始めようと思った矢先の事でした。



英雄が、ワタシを訪ねてやってきたのは。


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