第十二話「その後」
嵐の中を走り抜けて、ワタシは洞窟へと向かいました。
腕の中で眠る子を起こさぬように、落とさぬように、濡らさぬように、爪で引っかいてしまわぬように、丁寧に、慎重に、されど素早く、駆け抜けます。
しばらくして、ワタシは洞窟へと辿り着きました。
洞窟から物音がしないので、どうしたのかと思い中を覗いてみれば、双子の姉弟は肩を寄せ合い、ぐっすりと眠ってしまっていました。
二人が洞窟に来てから、それなりに時間がたっていたでしょうから、おそらく、待ちくたびれてしまったのでしょうね。
カイトを双子の隣にそっと置き、三人に“回復”の魔法をかけ、ワタシは洞窟の外に出ます。
大人達を洞窟へと誘導する為です。
どのように誘導するか、音を立ててみるか、いや、幻覚を見せて呼び込む方が、いやその前に探さなければ、などと考えながら、とりあえず、耳を澄ましてみました。
「かざみー‼︎らいー‼︎」
「どこいったー‼︎ @a○しろー‼︎」
ちょうど良いところに、大人達の声がしました。
少し遠くから聞こえましたが、徐々にこちらへと近づいてきており、やはり、洞窟と向かって来ているようでした。
好都合、手間が省けました。
ワタシは近くの木の上に隠れ、経緯を見守ります。
大人達が洞窟へやってくると、驚いた顔をして走り出し、中へ入っていきました。いまいち聞き取れませんでしたが、何かしらの会話が聞こえてきます。
無事、合流できたようです。
これで良かった。
ワタシに後悔はありません。
あとは、子供達がどのような事を話すのか。
体中の傷が治り、村へ向かった筈のカイトが戻っている。
本人に自分で戻った記憶は無く、それどころか、道を間違え、迷っていた筈。
おかしな事がこれだけあるのです。
不審に思わないわけがない。
子供の話とはいえ、必死の形相で訴えれば、大人達も少しは
不思議に思う筈です。
さらに、もし朧げながらも、カイトがワタシの顔を見ていたら、抱きかかえられた記憶が残っていれば、最悪の場合、村人達が森の中を捜索をしだす事もあるでしょう。
まぁ、悪さをしたわけではありませんので、そこまでする可能性は低いでしょうけどね。
何にせよ、あとは流れに任せるのみ。
どのような結果になろうとも、受け入れるつもりでした。
願わくば、村人達にワタシの存在がバレてしまいませんようにと、そのような事を思いながら、ワタシはその場を後にしたのです。
さて、ここから話は少し飛びまして、初夏。
雨の季節が終わり、
これから本格的な暑さが始まるというそんな頃。
ワタシはまだ、ツキノ村にいました。
すぐにでも逃げられるように、荷物をまとめ、ボロ小屋の屋根に近い部分に身を置き、“認識阻害”の魔法を常にかけ、しっかりと準備をしていたのですが…
あれから結局、何の動きも無かったのです。
子供達の話を半分程度に聞いていたのか、それとも夢でも見ていたと思ったのか…どちらにせよ、ワタシにとっては幸いでした。
それから夏が終わるまでの間は、一応警戒していたのですが、何も起こる事なく、ワタシは何も変わらない、元の生活へ戻っていったのです。
あっそういえば、一つだけ変わった事がありました。
あの子供達、カイト、カザミ、ライの三人組が、時々あの洞窟に集まるようになったのです。
そこを拠点として、あちらこちらと森の中を散策し、その後、話し合いをしている様子でした。
まるで何かを探すかのように。
きっと、ワタシを探していたのでしょうね。
自分達の身に起きた不思議への答えが欲しくて、好奇心の赴くままに、足を動かし、頭を捻る姿には、とても好感が持てました。
まぁ、見つかってはあげませんでしたけどね。