第百二十八話「依頼達成」
「ふんっ!!」
ザンッ!
ワタシ達三人が巣の前に戻った頃。
ギルベルトさん達はなんと、辺りにいたリバーシブル・ビを一掃してしまっていました。
ワタシ達が戻ってくるまでの、ごく短時間で。
「なんと」
「あらぁ。おかえりなさい。さっき、爆発音が聞こえたけど、無事みたいで良かったわぁ」
ラナンさんが魔術を失敗した際の爆発音は、どうやらチャロアさん達にも聞こえていたみたいです。
まぁ、巣からそこまで離れていない場所で爆発したので、そんな気はしていたんですけどね。
「無事だ!めっちゃ元気だぞ!ちょっと焦げたけど!」
「あらぁ?ん〜…てことは、さっきのは、ラナンちゃんが、魔術に、失敗しちゃった音?」
「うん!失敗した!」
「お察しのとおりです…」
「因みにこれが、その失敗に巻き込まれた女王蜂ね」
と、チャロアさんに真っ黒に焦げた女王蜂を見せるファルケさん。
「あらぁ」
「そして、この失敗については後でラナンさんにお説教をする予定です」
「うぐぅ…」
「あらあらまぁ」
「…ところで」
と言ってワタシは、ギルベルトさんの方を見る。
ワタシ達が巣に戻ってきたのを横目にチラリと確認した後、こちらに合流してくる事も無く、ただその場に佇み、大きく深呼吸をしているように見えました。
「ギルベルトさんは何をしているのですか?」
「あぁ、あれねぇ?あれはね、心を落ち着かせてるのよぉ」
「心を?」
「そう。ほらぁ、さっき、ギルが使ってた魔法、あるでしょう?」
「あぁ、確か、身体強化系の魔法でしたよね?」
「それよ〜。あの魔法はね、すご〜く、強くなるかわりに、ちょ〜っと凶暴になりやすくなっちゃう魔法、なのよね〜」
「なるほど。だから、使用後は精神統一が必要になると」
「そういう事〜。まぁ、ちょっと使う分には、それも必要ないんだけど、ギル、さっきの爆発音を聞いてから、魔法、ちょっと長く使ってたからぁ」
「あぁ…」
つまり、ギルベルトさんはこちらに何かあった場合を考え、魔法を使い急いで辺りの敵を一掃した、という事のようでした。
「後は、そうねぇ、五感も鋭くなっちゃうから、ちょっと休む意味も、あるわねぇ」
「なるほど」
ワタシ達をチラリと見た後、すぐにラナンさんの安否を確認するのではなく早々に精神統一を始めたのも、その鋭くなった五感で、既にワタシ達が無事である事を察知していたからなのかもしれません。
「ふー…戻ったか」
などと話している間に、ギルベルトさんは落ち着きを取り戻したようで、こちらに声をかけてきました。
「えぇ。ラナンさんもこの通り」
「元気っ!」
「ん。無事なようで何よりだ」
「後、はいこれ。女王蜂ね」
と、ギルベルトさんに真っ黒に焦げた女王蜂を見せるファルケさん。
「…ラナンか?」
「正解。ラナンちゃんが魔術に失敗して、女王蜂がそれに巻き込まれた形」
「…今までの中で一番酷いな」
「ね?実際、凄い爆発だったよ」
「それだけ強力な魔術というわけか…」
話がスムーズに進んでいるところから察するに、ラナンさんは今までにも、戦闘中に何度も魔法を暴発させてきたのだろうと思われました。
「あぁそれと、ギルベルトさん」
「なんだ?」
「魔術と魔法での応急処置は済ませてありますが、ラナンさんは女王蜂に刺されています」
「何?」
「解毒出来たとは思いますが、ワタシは専門家ではありませんので、一度然るべき機関で診てもらった方がよろしいかと」
「あたし、めっちゃ元気なのに?」
「…いや、キミドリさんが言うなら、一度医者に診てもらった方が良いのだろう。わかった。出来るだけ早く連れて行く」
「え…ちょ、ちょっと待ってくれよ!じゃあこの後すぐに町に帰るって事か?!師匠のケーキは?!」
「治療が終わるまでお預けだ」
「そんな〜っ?!!」
今回、パウンドケーキが早く食べたいが為に張り切っていたラナンさんは、とてもガッカリとして、項垂れてしまいました。
「それに、今回の討伐で少し気になる事もある。急ぎギルドに報告に行く必要もある」
「うえ〜…師匠〜」
「諦めなさい」
「うぐぅ…」
「…さて」
ギルベルトさんは辺りを見回し、ナイフを取り出した後、ワタシ達に指示を出し始めました。
「数が数だけに少し骨は折れるが…討伐証明の為の部位の回収を始める。オレとファルケは部位の切り取り、ラナンは見張り、チャロアは結界と回収屋の呼び出しを頼む」
「了解」
「了解…」
「りょ〜か〜い」
「ギルベルトさん。ワタシはどうしましょうか?」
「キミドリさんには後で部位の回収を手伝ってもらいたいが、先に蜂蜜を採ってくるといい。ついでに、巣の一部も切り取ってもらえると助かる」
「了解しました。では、お言葉に甘えますね」
そうしてワタシ達はそれぞれの作業に入り、無事に、リバーシブル・ビーの討伐依頼を達成したのでした。




