第百二十三話「改めて、観察」
翌日、早朝。
「じゃっ!しゅっぱーつ!」
ワタシ達は目的地の巣に向かい、出発しました。
目的地の巣があるのは、洞窟から歩いてそう遠くない所にある崖の窪み。
ゆっくり歩いて向かっても、太陽が頂点に登りきるよりも前には到着する場所でした。
見慣れた森の中で観察しておきたい物もその時には無く、目的地に着くまでは、彼らに着いて行くだけだったのワタシに割り振られた仕事もありませんでしたから、ワタシは改めて、彼らの仕事ぶりを観察する事にしました。
「…うん。こっちで合ってるね。あ、そこ気をつけて。見えづらくなってるけど、地面が窪んでる上にぬかるんでるからね」
先頭を歩いていくのは、狩人のファルケさん。
狩人としての知識と経験を生かして冒険者となった彼は、弓使いとしての腕はさることながら、その観察眼は他の冒険者よりも頭一つ抜けています。
あらゆる痕跡も見逃さず、どのような生き物であっても彼の目から逃れる事は難しいでしょう。
リバーシブル•ビーの巣を短時間で発見出来たのも、彼の活躍によるところのようだと思われました。
戦闘においての役割は、後衛での遠距離攻撃です。
「あ!チャロアチャロア!あれ、チャロアが言ってた花じゃないか?ほら、あの青いの!」
花を見つけてチャロアさんに報告する、槍使いのラナンさん。
彼女はエルフである為か森の中を歩くのが非常に上手く、森の中での探し物も得意なようでした。
また、長物である槍を持っているとは思えぬ程に身軽で機敏な動きをし、木の上を移動するなども軽々とやってのけ、広範囲を見て廻るなどの役もこなします。
戦闘においての役割は、前衛での近距離、中距離攻撃と撹乱です。
「あらぁ。良い所にあったわねぇ。ギル、あの花、ちょっと取ってきても良いかしらぁ?」
ギルベルトさんにそう問う、魔法使いのチャロアさん。
触媒マニアである彼女の知識量は素晴らしく、あらゆる素材の知識を持ち合わせています。
触媒を用いて実に様々な魔法を使いこなし、属性や魔法の型にも囚われません。
依頼の際は、その依頼の内容に応じて道中で素材を採取し、触媒として利用してより効率よく依頼をこなすのに一役買っているようです。
戦闘においての役割は、後衛からの魔法による支援と、状況に応じて遠距離攻撃なども行います。
「あぁ、構わない。ついでだ。この辺りで一度休んでおこう。リバーシブル•ビーの巣までは、もうそれ程遠くない筈だ」
問いに答え最後方から指示を出す、リーダーのギルベルトさん。
彼を一言で言えば、“リーダーに相応しい人”、でしょうか。
状況判断能力が高く、決断力があり、先を読む力に優れ、情報の取捨選択を冷静に行い、時に大胆な行動に出る。
彼は、パーティのリーダーとして必要な能力を一通り持ち合わせているようで、いつも的確な判断を下しているように見えました。
状況を見極め、休息を積極的に取り、撤退という判断も取る事が出来るのは、リーダーとして優れている証拠だとワタシは思います。
戦闘における役割は、大剣による前衛での近距離攻撃、司令塔、また、タンクとしての役もこなします。
それぞれが冒険者として高い能力を持ち、互いに尊重し合い、信じ、まとまっている。
一人旅の最中、ワタシは沢山の冒険者達を観察してきましたが、彼らはその中でも、かなり優秀な部類だと感じられました。
「キミドリさんも、それで構わないだろうか?」
「えぇ。ワタシは構いませんよ。ギルベルトさんに従います」
そして、そんな彼らに着いて行くワタシ。
ペタルは何処かに出かけてしまっていたようで、何処にも姿が見えませんでした。
まぁ、いつもの事ですね。
「俺も賛成。目的地の巣まで遠すぎず近すぎず、丁度いい距離だと思うよ」
「あたしも賛成!丁度小腹が空いてきてたところなんだ!あ!チャロア!あれって食べられる木の実だっけ?」
「あれは毒があるから、食べちゃ駄目よ〜」
ゆるく会話を楽しみながら、休憩を挟みつつ、目的地へと向かうワタシ達。
目的地の巣までは、あと少し。




