第百二十二話「討伐のお誘い」
「まぁ!ラナンちゃん、それって、本当?おめでとう〜!」
「えっへへぇ。ありがとう!」
「良かったねラナンちゃん。本当に凄いよ。おめでとう!」
「えへへへぇ。あたし、頑張ったんだ!ありがとう!」
「あぁ、分かってる。よく頑張ったな、ラナン」
「えへへへへぇ」
ラナンさんを抱きしめるチャロアさん。
喜びラナンさんを褒めるファルケさん。
ラナンさんの頭を撫でるギルベルトさん。
そして照れくさそうに、しかしとても嬉しそうに笑うラナンさん。
まるで妹か娘を褒める家族のようなその光景に、ワタシは微笑ましさを感じました。
「キミドリさん。ラナンに魔術を教えてくれてありがとう。感謝する」
「フフフ。どういたしましてギルベルトさん。でも、ワタシは手助けをしただけです。魔術を使えるようになったのは一重に、ラナンさんが頑張ったからですよ。ね、ラナンさん」
「し、師匠〜!!!」
涙目になりながら、また喜ぶラナンさん。
それを見て、ニコニコと笑うギルベルさん達。
そんな様子を見ながら、ワタシはギルベルトさん達から聞いた話を思いだしていました。
シェブナの森で急速に数を増している魔物。
“リバーシブル•ビー”
群れで生活する蜂の魔物で、大きさは小型の犬程。
食料豊富な暖かな時期は花や果実を食べ、魔物にしては比較的に穏やかな性格をしていますが、一転、寒い時期になると凶暴な性格へと変化し、生物を襲い肉を食い始めます。
元々は別の地域に生息していた魔物だったそうなのですが、どういうわけか、近頃ではシェブナの森にも現れるようになり、遭遇する頻度も上がっているそうなのです。
「あ!そうそう!師匠がさ!お祝いにスポンジケーキ作ってくれるんだってさ!な!師匠!」
「ええ、そうですね」
遭遇する頻度が上がれば、当然、被害の数も増える。
故に、冒険者ギルドではリバーシブル•ビーの数が減るまでの間という限定条件で、リバーシブル•ビーの討伐依頼を常駐で出している程でした。
「あらぁ、良かったわねぇ。キミドリさんのお菓子は、とってもおいしいものねぇ」
「な!楽しみだなぁ!」
「ありがとうございます。ただ、材料が足りないので、作るのはまた後日になりそうです」
「あらぁ、そうなのねぇ。じゃあ、次に来るのが楽しみねぇ」
会話をしながら、ラナンさんの方を見る。
ギルベルトさん達がその時に受けていた依頼も、まさに、そのリバーシブル•ビーの討伐依頼でした。
本来であれば、ラナンさんを抜いた三人でも十分に対処出来る依頼だった、筈なのですが…どうも発見した巣が、想定よりも一回り以上大きかったそうなのです。
三人で対処するのは難しい。
そう判断した彼らは一度洞窟まで戻り、ラナンさんを加えて、改めて作成会議をしよう、となったわけです。
「うん!でもあたし、待ちきれないや!だからさ師匠!一緒にリバーシブル•ビーの討伐に行こうぜ!」
何故か急にそのような事を言いだすラナンさん。
「待ってくださいラナンさん。何故そのような話に?」
「だって砂糖も花蜜も無いんだろ?だったら蜂蜜取りに行こうぜ!リバーシブル•ビーの蜂蜜って、めっちゃ美味しいんだよなー!だから取りに行こう!な!師匠!」
どうやらラナンさんは、ワタシの独り言で呟いていた足りない材料をしっかりと聞いていたようでした。
「ラナン。キミドリさんの迷惑になるだろう」
「だってさ!材料無かったらケーキ作れないじゃん!町まで買いに行ってたら時間かかるし、なぁ師匠!良いだろ?あたしと討伐に行ってくれよ〜!」
「ふむ…」
町に行くのは時間がかかる。
時間に追われているわけでは無いが、出来るだけ短縮はしたい。
シェブナの森に居る以上、今後、例の魔物と遭遇する可能性が高くなると思われる。
これから凶暴性が増してくる事を考えれば、厄介な相手になる前に間引いておいて損は無い。
間引くなら、手が多い方が良い。
なら、協力して討伐の成功率を上げるのもまた良し。
人間と行動を共にするのにも慣れてきた。
共に向かうメンバーが彼らなら、そう問題にはならない筈。
ラナンさんにお祝いのスポンジケーキを作ると言った以上、出来れば彼女の希望を叶えたい。
なら。
「…良いですよ。行きましょうか。リバーシブル•ビーの討伐に」
ワタシは彼らと共に、リバーシブル•ビーの討伐に向かう事にしました。




