第百十九話「想定以上」
さて、ラナンさんに魔術を教える事になり、早速彼女の魔力についてあれこれを調べてみた…のですが。
「…」
『…』
「…な?全然ダメだろ?」
結果は散々なものでした。
魔力の球を作ってもらえば、球の形にならずに霧散。
呪文をしっかり唱えて貰いながら光属性の球、“光球”を作ってもらえば、魔法という形になる前に爆散。
光球の魔法陣を刻み込んだ木板を持ってもらい、そこに魔力を流し込みつつ呪文を唱えてもらえば、木板が木っ端微塵に爆散。
更に、ペタルをお菓子で買収して魔力操作の補助を頼み、魔力の使い方を感覚で覚えてもらおうとしましたが…なんと、これも失敗。
文字通り魔力を自身の体のように操る妖精の手を借りた上での、失敗。
えぇ、そうです。
ラナンさんは、類稀なる魔力操作下手でした。
「これは…骨が折れそうですね」
『ていうかぁ、ムリっぽくない?』
「そんなぁ!!!」
『んーもう大きい声出さないでよぉ。耳がキーンってしちゃうわ』
「ペタルから見ても、難しいですか」
『そりゃそうよぉ。エルフでこんなに魔力使うの下手っぴな子、アーシ初めて見たわん』
「そうですか」
「あ!そうだ契約!妖精と契約したら魔力使うの上手くなったりしないかな?!ペタル!あたしと契約してくれ!」
『イーヤーよ。アーシ、アンタの事苦手だもん。あとアーシはキミドリと契約してるしぃ』
「じゃあ他の妖精紹介してくれ!頼む!」
『ムリ。自分で探すのね』
妖精から見ても、魔力操作の上達は難しい。
妖精と契約して、常に魔力操作の補助をしてもらえばまた違うのかもしれませんが…おそらくそれも難しい。
「ふーむ…」
ラナンさんに色々試してもらって、分かった事は二つ。
一つ目は、先程も言ったように、ラナンさんが類稀なる魔力操作下手だという事。
どうやら彼女は、魔力出力量と魔力密度の操作が特に苦手なようで、最大出力かほぼ出力無し、また、超高密度でしか魔力を扱えないようでした。
その上、魔力を纏めておくのも不得手で不安定。
故に、魔法を発動するための魔力が出力出来ずに不発したり、魔法という形に纏めきれずに霧散したり、高出力高密度の魔力を上手く纏められていない状態で魔法を使おうとして爆発したり…そんなところでしょうか。
使い捨ての魔道具でさえ扱えなかったのは、ラナンさんのその高出力高密度の魔力に耐えきれなかったのが原因のようです。
唯一、魔力の流れる方向だけは上手く操れるようでしたので、魔力を通す為の丈夫な道さえあれば、魔力を流す事だけは出来るようでした。
ラナンさんが身体強化の魔法を扱えていたのは、それが理由のようです。
身体強化の魔法は、体の中で魔力を循環させて発動する魔法ですからね。
二つ目、ラナンさんの魔力の伝達速度が異様に速い事。
これは、彼女の魔力の特性についてですね。
調べてみたところ、なんとラナンさんの魔力の最大伝達速度は常人の二倍、いえ、もしかすると三倍近く速い事が分かりました。
例えば、魔力を満タンまで補填するのに一分前後かかる魔道具があったとして、ラナンさんの場合ですと、三十秒程で満タンに出来てしまうという事です。
この特性の使い方によっては、かなり強い武器になる…筈なのですが、ラナンさんにとっては、魔力を上手く扱えない一要因となっているようでした。
高出力、高密度、高速度の魔力。
魔法を扱う事に長けた者でも手を焼くであろう高威力の魔力を、どうして魔力操作下手が扱えましょう。
「う゛ー…なぁキミドリぃ。あたしどうしたら良い…?」
「そうですねぇ…」
普通の魔道具や魔法補助道具ではもたない。
ラナンさんが現在そういった道具を持っていないところを見るに、探すのも難しい。
同じ理由で、オーダーメイド品も厳しいと見える。
彼女の魔力操作技術向上は正直、あまり見込めない。
しかし出来れば彼女の努力次第で手に入る方法が好ましい。
ワタシに求められているのは、魔術の知識。
と、なれば。
「ラナンさん」
「なんだ?」
「魔術を勉強する気はあるんですよね?」
「ある!」
「よろしい。では、これから魔術の簡単な説明をさせていただきますが、お時間はございますか?」
「もちろんだ!」
「わかりました。それではワタシの持っている魔術書をお貸ししますから、内容に沿うように説明させていただきます。その後は本を持ち帰って、一度自分で読んでみて下さい」
「わかった!」
「よい返事ですね。ワタシは、次にラナンさんが来るまでの間に、準備を進めておきますね」
「教えてくれる準備か?」
「えぇ。それと…魔術を作る準備を」
現存の方法で難しいのなら、出来る方法を作れば良い。
ワタシは、ラナンさん専用の魔術を作る事にしました。




