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第十一話「捜索」

走る。森の中を走る。体に打ちつける雨や風を気にする余裕もなく、森の中を走る。



あの雷鳴が聞こえた後、ワタシは自身に“身体強化”の魔法をかけ、猛スピードで走り出していました。



耳を澄ませ、目を凝らし、手がかりを探す。

走りながらもワタシは、思考を巡らせていました。


あの子は一体どこへ行ってしまったのか。あの子の事だ、双子の為に、誰か大人を呼びに行ったのだろう。では何故まだ大人達と合流していないのか。この大嵐の中だ、どこかで道を間違えても無理はない。迷ったのならどこへ行ってしまったのか。少なくとも大人達は手分けをして、村を中心にして探している筈。もしまだ見つかっていないのなら、森の奥へと向かったのかもしれない。途中まで道を間違えずに進んだのなら…



考え、自問自答し、範囲を狭めて、()けてゆく。

身長が伸びきり、身体能力が大幅に向上していたワタシは、森の中を休む事なく、走り続ける事ができました。


洞窟の周辺、その近くの崖、少し離れた場所にある小川、その川下、少し戻って隣の山、その山間(さんかん)辿(たど)りやすい獣道、村とは反対方向へと辿った所にある…


一際(ひときわ)大きな木のある、小さな原っぱ。



「ゼェ…ゼ…ケホッ…くそっ…ゼェ…はや、く…もど、ね、と…」



そこに、彼はいました。

全身泥だらけのずぶ濡れ、小さな傷を体中に作り、弱りきっていました。


力なく木にもたれかかった彼の目はほとんど開いておらず、息も絶え絶え(たえだえ)で、呟くように発した言葉は、虫の音よりも、小さかったように思います。


おそらく、長時間雨に打たれ続け、体温を奪われ、それでも歩みを止めず、彷徨(さまよ)い、体力に限界が来てしまったのでしょう。

もはや指一本、動かせるようではありませんでした。



このままでは、死ぬ。



ゾッとしました。


生き物の生き死にには慣れていた筈なのに、あれだけ沢山の生き物を狩ってきた筈なのに、この子供が死ぬと思うと、ゾッとしたのです。



たかが観察対象だった筈の生き物が、ただ死ぬだけなのに。



助けてしまえば、ワタシの存在が村にバレるかもしれない。

もうあそこには居られなくなるかもしれない。

好奇心を満たせなくなるかもしれない。

放っておく方が都合の良い。


しかし…


ワタシが何もしなければ、確実に死ぬ。


ワタシにはもう、その小さな生き物を見捨てる事など、出来ませんでした。



ワタシは覚悟を決め、カイトを抱きかかえました。

しかし、それなのに何の反応も無い。

意識が(おぼろ)なようで、こちらを見ない。

命は風前の灯火で、それ以上時間はありませんでした。



ワタシはカイトに応急手当を(ほどこ)します。

体がこれ以上弱らぬように“身体強化”を、体中の傷を治し代謝を上げる為に“回復”を、少しでも体力を使わせぬように“眠り”の魔法をかけました。



冷えきっていた体は熱を取り戻し、小さな寝息をたて始め、ワタシは少しホッとしました。



しかしまだ油断はできない。

あくまでも応急手当て。

ちゃんとした人間の治療が必要。

あの双子の事も気になる。


戻らねば。


そう思い、一度洞窟へと戻る事にしたワタシは、木の影から出て、原っぱを走り抜け、森へと足を踏み入れた、



次の瞬間。



カッ‼︎

ドガシャアアアアアアアアアアアンッ‼︎



激しい閃光と爆発するかのような音と共に、木に雷が落ちました。


あと数十秒、いえ、あとほんの数秒離れるのが遅ければ、ワタシ達はあの木 共々(ともども)、雷に貫かれていたでしょう。



危なかった、本当に危なかった。


(あや)うく二人まとめて丸焦げになるところでした。

こう一日に何度も肝を冷やす羽目になるとは、思ってもいませんでした。



同じ場所にまた落ちてくる可能性を考え、ワタシは再び走り出します。


人間の子供は元より、魔物であるワタシでさえも、雷に打たれれば一溜(ひとた)まりもないでしょうから。




…?


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