第百十三話「提案」
「…つまり、ワタシを洞窟まで送って下さる、と?」
「そういう事になるね」
ファルケさんとチャロアさんが出した提案。
それは、“シェブナの森の調査依頼に途中まで同行する事”でした。
お二人は、ワタシがギルベルトさんと会ったあの夜の内に、ワタシが町を出て行く事をギルベルトさんから聞いていたそうです。
その時に、ワタシが荷物が多すぎる件で困ってるという事も聞いたそうで、じゃあお礼もしたいし手伝おうか、と、考えたんだとか。
ではどうやって手伝うのか。
簡単な話です。
“ただ手分けして持つ”
たったそれだけ。
たったそれだけですが、ワタシにはとても有難い提案でした。
荷物が多過ぎる事でワタシが危惧していた事は、二つ。
一つは、あらゆる行動の妨げになる事。
夜のアウロラを跳び回り改めて思った事なのですが、やはり、とても動きづらいのです。
荷物は嵩張る上、それなりの重さがある為に、魔法や魔術を使っていても、思うようには動けませんでした。
嵩張る故に動くのに気を使う。重さがある故に遠心力が働く。荷物を持っている故に手が使えない。
食料品を加工して少し量が減っていたとはいえ、まだ片手が塞がるだけの量はあるので、結局片手が使えない。
見知った森の中を行くとはいえ、危険が全く無いというわけではありませんから、いざという時に思うように動けない状態というのは、出来るだけ避けたかったのです。
二つ目は、荷物を駄目にする可能性がある事。
ワタシは基本的に、鞄に入る程度の量の荷物しか持ち歩きません。
なので、それ以上の大荷物を抱えた場合での長時間移動には、慣れていないのです。
足の運び方や荷物の重心の捉え方が悪ければ、バランスを崩す可能性がある。
そうなれば、荷物を地面にぶち撒けたり、どこかにぶつけたり、水や泥の中に落とす事もあるでしょう。
荷物の中には、打撃に弱い物や水や泥に弱い物もありましたからねぇ。
荷物を無駄にしない為にも、どうにか方法を考える必要がありました。
そういうわけですから、ワタシにとって、お二人からの提案はとても有難く感じたのです。
しかし、気になる事が一つ。
「ですが、それはギルド的にはよろしいのですか?」
「と、いうと?」
「“調査依頼に同行”という事は、ワタシもそのクエストに参加する事になりせんか?依頼者でも無く、冒険者ギルドに登録もしていないワタシが依頼に参加するのは、何かしらの違反行為に抵触する可能性があるのでは?」
「あぁそこは大丈夫。実はギルドから、キミドリさんに話を聞いておいて欲しいってお願いもされてるんだよね」
「ギルドから?」
「そうなの〜。ダーククラウズ・ベアーと、ギルを見つけた時の事を、教えて欲しいんですって〜」
「ここ何年か、シェブナの森で強い魔物の出現率が上がっているからね。少しでも情報が欲しいのさ。まぁつまり、必要があれば、キミドリさんが調査依頼に参加するのもオッケーって事になるね」
「なるほど」
「もちろん、キミドリさんが嫌なら、提案も、お話を聞く事も、断ってくれてもいいんだけど、どうかしら〜?」
「ふむ…」
ワタシは荷物が軽くなる。
彼らはギルドのお願いをこなせる。
正体を隠し切る自信はある。
彼らがギルベルトさんのお仲間である事を考えれば、ある程度は信用出来る、筈。
それに、ワタシが一人旅をしている時に見た、あの、冒険者同士の会話を間近で見る事が出来る。
ワタシはトニックさんの方をチラリと見ました。
トニックさんはワタシが見ている事に気づくと、少し考え事をするような仕草の後、ワタシの方を向き、ニコリと笑いました。
おそらく、トニックさんから見ても、提案の内容に問題は無い。
で、あれば。
「では、よろしくお願いします」
「こちらこそ!よろしくお願いするよ」
「じゃあ、今日は、これくらいで、お暇させてもらうわね〜。キミドリさん、今日はありがとう〜。トニックさん、明日も来て良いかしら?」
「えぇ、大丈夫ですよ。また同じ時間にお待ちしております」
「ありがとう〜。また今度、沢山お買い物、させてもらうわね〜」
「じゃあ、俺達はこれで」
そう言って、店の出入り口へ向かおうとするお二人。
「あ、待って下さい。一つ聞きたい事があるのですが」
「ん〜?なぁに?キミドリさん」
「本日は何故、ギルベルトさんでは無く、お二人がこちらにいらしたのですか?」
ワタシに提案をするのなら、見知らぬお二人よりギルベルトさんの方が信用されやすい筈。
なのに、ギルベルトさんの姿が見えない。
ワタシがお二人に問いかけると、お二人は少し困り笑いのような顔をして答えました。
「あ〜…それね。まぁ、キミドリさんにお礼を言いたかったっていうのと、顔合わせしておきたかったから…っていうのもあるんだけどねぇ…」
「?」
「ギル、今ね、ラナンちゃんに、お説教中なの〜」
「あぁ…」
そんなこんなでワタシは、洞窟までの道中を、冒険者パーティ“明時の空”と共に行く事になったのです。
メリークリスマス。




