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2)

 執務室のとなりの部屋で、アレキサンダーは、近習達と軽食を口にしていた。


「あの、ロバートさんって、少し独特ですか」

ティモシーなりに表現を選んだのだろう。

「ローズちゃんをこのくらいにして、どうするというのでしょうか」

まだ若いティモシーと、他の近習たちが想像しているものは違うだろう。


「愛でるでしょうね。小さければ、どこへでも連れていけますから。毎日連れて歩いて、食事を食べさせて、寝かしつけて、今と変わらないでしょう。気に入らない相手がきたら、上着の中に隠してしまえばいい」

あまりに具体的な表現をするエリックに、全員の視線が注がれた。


「前にロバートが言っていたのですよ。どなたかはわかりませんが、お客人の態度が気に入らなかったようです。ローズを小さくして、上着の中に隠しておきたいと」

 聞いてはいけないことを耳にしたのではないかと、執務室の面々は顔を見合わせた。

「あのロバートに、幼子のような独占欲があるとは知りませんでした」

 エリックは感慨深げだ。

「お前は母親か」

エドガーの発言をエリックは無視した。


「そうなると、一つ気になることがあるのです」

エリックはアレキサンダーに詰め寄った。

「なんだ」

距離の近いエリックに、アレキサンダーは顔をしかめた。

「アレキサンダー様、確認させていただきますが、ロバートは本当に、子供の作り方を知っているのですか」

何度きかれたかわからない質問だ。


「ロバートは、私と一緒に教わった。知っているはずだ」

アレキサンダーは、もう何度この言葉を口にしたかわからない。

「ローズが、こんなに小さくなっては、子をなすことなど出来ません。ただの戯言とはいえ、心配です」

アレキサンダーはエリックを見た。

「お前は、母親か」

「違います」

エリックは即座に否定した。


「そもそも、ロバートに妹はいずれ兄の元を離れていくなどと、余計なことを教えたのは誰だ。妙に消極的なのは、そのせいじゃないのか」

アレキサンダーの言葉に、エリックは押し黙った。


「お前か」

「はい」

「申し訳ありません」

「軽はずみでした」

エリック以外に、数名の返事があった。


「生真面目なロバートが、年齢差を気にしないわけがないだろう。立場の違いもある。貴族でないのが不思議なくらいの名家だ。いくら本家とはいえ、推定十歳以上も離れた孤児との婚姻は難しいだろうに。王家の揺り籠の分家は、貴族が多い」

アレキサンダーはため息を吐いた。


「アレキサンダー様はどう思われますか」

ティモシーの質問にアレキサンダーは、誰も居ないロバートの机をみた。

「私には妹がいないからわからないが。あれが妹なわけがないだろう」

ロバートの執務机の椅子は長椅子だ。その長椅子にロバートとローズは並んで腰掛けて執務をする。仲睦まじいとしか言いようのない光景だ。


「だから、子供の作り方を知っているのかが心配、いえ、アレキサンダー様」

エドガーがいつになく真面目な顔になった。

「ロバートには、そういう欲があるのでしょうか」

アレキサンダーは顔をしかめた。数日前にもグレースに、同じようなことを聞かれた。

「私に聞くな」

アレキサンダーも、最近少し心配になっているのだ。


「ロバートさんには、聞けませんよね」

ティモシーの言葉に、同意するものは多い。

「いや、ティモシー、お前ならきける。お前なら。聞いてこい」

「嫌です」

フレデリックの無茶な発言をティモシーは即刻否定した。

「僕は、尊敬するロバートさんに、そんなこと聞けません。肯定されても否定されても困ります」

「お前たち、ティモシーを困らせるな」


 ローズが来てからロバートの表情が増えた。アレキサンダーは、そういう声をよく耳にする。子供の頃を知るアレキサンダーからみれば、もとに戻っただけだ。


「できれば、放っておいてやりたいが」

アレキサンダーも、できれば、己の感情に不器用なロバートと、幼いローズの2人をそっと見守ってやりたい。


 王太子宮にいた、ローズに危害を加えそうな三人の侍女は排除した。だが、それだけで済まないことはわかっている。


 育った孤児院にも、もう少し頻繁に行かせてやりたいがそれも出来ない。ロバートからも、レオンからも不審者を見たという報告はあがっている。


 大司祭からも、教会内のやや選民思想の強い一派が、ローズが、聖女の名を騙ったと言いがかりをつけ、糾弾する声が上がっているとの報告があった。もっとも、ローズ自身が、聖女ではないと否定するから、声が上がる度に、尻すぼみになっているらしい。


「どうしたものか」


 アレキサンダーは、ようやく感情を取り戻したロバートを待ってやりたい。だが、ローズの立場を明確にしなければ、何か起こりかねないという懸念は、アレキサンダーの中で、日々強まっていた。


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