表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

1)

子供は素直だ。

「ローズちゃん、おんぶ」

年少組の小姓の一人、ニールは、まんまとローズの背中に収まった。小さなローズの背中に、小さなニールが背負われている様子は可愛らしい。


「可愛らしいですね」

その光景を見たロバートが微笑んだ。

「いいのか」

エドガーとしては、いろいろと問いたい。


 お前の大事なローズが、お前より小姓達と仲良くしていていいのか。

 ローズが、お前より、小姓の誰かと親密になってよいのか。

問いただしたいことはある。


「孤児院では、小さい子達の面倒をよく見ていたそうです。育った環境から引き離してしまいましたから。小姓達と過ごしているほうが、ローズも楽しいかもしれません」


 エドガーは、ロバートの思いもかけない返事になんと答えたらよいかわからず、エリックの方をみた。エリックは、エドガーから視線を逸らした。


 裏切り者。エドガーは無言でエリックを睨んだ。

「まぁ、お前とローズがそれでいいなら、いいか」

他人の自分が口出しすることではないだろうとエドガーは判断した。


「なにがだ」

アレキサンダーが書類から目を上げた。

「ローズです。小姓達と随分仲良くなりました。特に、年少組からは慕われているようですね」


 ロバートの言葉に、アレキサンダーが外をみると、ちょうど、年長組のネイサンが、ローズの背からニールを引き剥がしにかかっていた。ローズちゃんが疲れるから駄目、と言っている声が聞こえる。ニールは、必死の抵抗にもかかわらず、引き剥がされた。途端に、癇癪をおこしたニールが泣きながらネイサンに、掴みかかっていく。


「おやおや」

「あーあ」

ロバートの声にティモシーの情けない声が重なった。


「ネイサンは、どうやって収めるのでしょうね」

「ネイサン、やり過ぎだよ」

先日まで、小姓筆頭だったティモシーが、頭を抱えていた。


「まぁ、誰もが一度は通る道ですよ」

身に覚えがあると言わんばかりのロバートの言葉に、ティモシーがため息をついた。

「それはそうですけど。なんか、ちょっと前の自分を思い出して恥ずかしいです」

「皆、それぞれ思うところはあるでしょう。全員子供だったのですから」

「そうだな」

ティモシーとロバートの会話に、アレキサンダーが同意した。


 癇癪を起こした子供の扱いは難しい。なんとかしようと思うだけ無駄だ。疲れきるまで放置しておけばいい。というロバートの持論をアレキサンダーは思い出した。アレキサンダーは、ロバートが、誰との経験から、その持論を導き出したのかを考えないようにしている。


アレキサンダーも、子供だった。当然、思うところはある。


「そういえば、ローズと小姓達は、何やら、秘密があるらしいですよ。ローズが楽しそうに、秘密がある。内緒だと、わざわざ教えてくれました」

その時のことを思い出したのか、ロバートは笑顔だ。

「いいのか」


アレキサンダーとしては、いろいろと問いたい。

 可愛がっているローズが、年齢の近い小姓達と親しくしていいのか。

 大切にしているローズが、お前に秘密だというのは、心配ではないのか。

問いただしたいことはあるのだ。


「いずれ教えてくれるそうですから。期間限定の秘密というのは、面白い考え方ですね。最近、ローズからバターの香りがすることが多いので、どうやら厨房も関係している様子です。怪我をしなければ構いません」


「そうか」

アレキサンダーは、ローズからのバターの香りなど気づいたことはない。ロバートとローズの距離の近さに、アレキサンダーはめまいを覚えた。

 

「なんとなく、察しておられますね」

ティモシーの質問にロバートは肩をすくめた。

「私は何も知りませんよ。ローズは秘密が楽しいようですから。私は知りません」

ロバートは、可愛いがっているローズの秘密に付き合ってやることにしたのだろう。


「ローズちゃん、可愛いですね」

最も若いティモシーの、単刀直入な質問に、執務室の面々は前のめりになった。

「そうですね。懐いてくれていますし。妹はいずれ、兄のもとを離れていくものだといいますから。今の間に可愛がっておきたいですね」

ティモシーの目が泳いだ。呆れ顔のアレキサンダーと目があい、何かを察したのだろう。


「そうですね」

ティモシーは先輩たちに習って無難な返事をすることにしたようだ。


「ずっと小さい可愛いままでいてくれたら、可愛がっていられるのですが」

そういうロバートの手は、肘くらいの高さを示している。

「子供の頃、育てた鷹がこれくらいでした。あちこち連れ歩いたものです」


ローズがその大きさになって欲しいというわけではないらしいことに、アレキサンダー達は安堵した。

「王都に来る時に、森に帰しました」

その鷹のことは、アレキサンダーも覚えている。森で見つけた飛べない幼鳥を、ロバートが鷹匠に教わりながら育てたのだ。

「森で元気にしているといいですね」

「えぇ。ただ、もう寿命でしょうから」


 アレキサンダーは、手元の書類に目を落とした。ロバートには知らせていないが、鷹は屋敷に舞い戻り、数年後に死んだ。鷹はロバートを呼ぶかのように啼き、死ぬまで、ロバートの使っていた籠手を使う鷹匠の指示だけに従ったという。


 ロバートが可愛がっていたポニーもそうだ。小さな子供の練習相手にはなったが、それ以外は頑なに拒んだ。振り落とすことはしなかったが、絶対に歩かなかったという。


 ロバートは小さいもの、可愛いものが好きで、面倒見がよいから相手から好かれる。


「ローズがこのくらいだったら、肩に座らせてどこへでも連れていけるのですが」


 続いたロバートの言葉に、執務室の面々は顔を見合わせた。

「無理な話です。可愛らしいでしょうが」

何を想像しているか知らないが、ロバートは笑顔だ。

「そうだな」

アレキサンダーは、何とか相槌をうった。


 昼の軽食にローズを連れ出すため、ロバートは執務室から退出していった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ