前章)
「あのね、ロバート、秘密があるの」
ローズはそう言うと笑った。
「秘密ですか」
「そう」
ローズは、秘密がよほど楽しいらしく、満面の笑みだ。
「秘密なの。だから、教えてあげないわ」
何も言わなければいいのに、秘密があるなどと暴露するあたり、ローズは言いたくて仕方ないのだろう。
「そうですか。残念です」
ロバートも予測はついている。
ローズを軽く抱きしめた。数日前から、ローズからバターの香りがする。厨房の調理師達からは、ローズが遊びに来ているという報告をうけていた。秘密は厨房に関するものなのだろう。
「秘密が出来たら教えてあげるわ」
ローズは手を伸ばしてロバートの頭を撫でてきた。
「期間限定の秘密ですか」
「そうよ。今だけの秘密」
秘密がよほど楽しいらしい。ローズは上機嫌だ。
ロバートにとり、秘密は枷だ。墓場まで持っていかねばならない。秘密を口にしながら笑顔のローズが羨ましい。
「そういう秘密も楽しいですね」
ロバートは、ローズの楽しい秘密に付き合うことにした。
「秘密が出来たら教えてあげるわ。だから、楽しみにしていて」
「そうですね。一番に教えてくれますか」
「えぇ、一番に持っていってあげるわ」
ローズは終始上機嫌だった。