両国の動き
首相官邸不審船団対策室
首相官邸に急遽設けられた対策室では第1綜合部隊への指示及び航空自衛隊との調整を担っていたが、戦闘終了との知らせを聞いて全員が安堵していた。
「殉職者が8名か…この国の為だとはいえ、遺族の方々には申し訳ないな」
五十里一郎首相はそう言い終えると黙祷をした。彼は政治家だが今までの首相の中で一番に国民を思っていた。
そのため汚職や天下りを堂々とする官僚をすぐに切り捨て未然に防ぐという異例のことをする彼を周囲は
「新時代の総理」と呼んだ_______________
「総理…まもなく記者会見です」
そばで控えていた男が彼にそう伝えると、そうかと短く言い彼は立ち上がった。国民に真実を伝えるために…
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コツコツコツという音しか響かなかった空間にシャッター音とフラッシュが焚かれ始めた。
マスコミからしてもこれは1面を飾ることになるからだろう。
「今日不審船団が我が国の領海を走行していましたため、海上保安庁の警備艇を派遣しました。ですが海上保安庁の警備艇は不審船団の攻撃により沈みました。そのため自衛隊法82条に基づき海上警備行動を発出し、海上自衛隊と航空自衛隊により不審船団を攻撃しました。」
そう首相は記者団に対してそう、国民に残酷な事実を伝えた。そして静かだった会見の場が急にざわめき始めた…無理もない。異世界転移後初のことだからだ。そして殉職者が出たこともだ。
「明らかに不審船団を派遣したブルエスト王国が今回の件の引き金を引いた本人でしょう。そしてこれは宣戦布告だとも取れます。ブルエスト王国について極めて遺憾であり言語両断であると思っています。ブルエスト王国に制裁、そして在日米軍や転移国と連携し厳重に抗議すると共に…自衛隊法128条に基づき軍事行動を取ります」
そしてさらに会見の場はざわめき始めた。まさか首相が改正した自衛隊法128条をいきなり使って邦人のためという名目で攻撃をすると予想できなかったからだ。
そして質疑応答が始まった…
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収容艦くにさきは無力化した兵士を乗せて本部へと帰還していた。元々輸送艦だったのだが国民の声によって改装され今では3隻しかない収容艦となっている。
そして艦内では厳しい取り調べが行われていた。
「なぜ攻撃をした!我が国の船はちゃんと言ったはずだろ!」
「国王からの命令でねぇ…まぁあんな物すぐに壊れちゃったけど」
「なんだとぉ…!」
収容室3ではブルエスト王国第2艦隊提督オルミ・ニシターナと秘書であるイミ・レスイが大島3等海佐の厳しい取り調べを行なっていた。
(相手はどうやら自分の立場もわかっていない様子だな…あんなテクノロジー我々からすれば100年前なのだが)
そう考えながら俺は部屋のドアを開け、交代するよとささやくと2人の前に座った。
「ブルエスト王国に喧嘩を売るとは貴様らの命ももう時期終わるな。なにせ紅龍が出てくるからなあれにはどこの国も屈服するわい」
「紅龍?なんですかそれは」
俺はそう言うと面白いなとそう感じた。弱そうに思えるからだ…と言っても白龍も弱かったからなのだが。
「聞いて驚け…時速50kmも出るのだぞ!素晴らしい…そして口から炎も吐くのだ!これには木造船どころか装甲艦すら沈んでしまうわい!」
「くく…あは、あははは」
俺はブルエスト王国第2艦隊提督オルミ・ニシターナの真剣に話すことを聞いて思わず笑ってしまった。時速50km?そんな物遅すぎないか…ヘリコプターでも落とせるな。
「な、なにが面白い!貴様らの国民の命なんてすぐに狩ってくれるわ!」
「50kmなんて遅すぎだろ。我々のなんて音の速さを超えていますから」
「戯言を…どうせ嘘に決まってる!」
「分かった…おいあれを持ってこい」
俺は大島3等海佐にそう指示を出すとニヤニヤして待った。そしてその品はすぐに届いたので俺は机の上にそれを置くと電源をつけた。
「なんだそれ…まな板か?」
「パソコンだ。そんな物も知らんとかブルエスト王国は弱いな」
俺はそう返事をすると画面を開き、DVDを入れた。さて面白いことになるだろうな。
「なんだこの龍は!速すぎないか!」
「これですか?まだ試験段階の戦闘機ですよ。まだせいぜい時速1500kmですかね」
「なんだこれは直ぐに建物に穴を開ける戦車は!?」
「戦車を知っているのか…これはまだまだ老朽化している方ですよ」
全部を説明を終えた時ブルエスト王国第2艦隊提督オルミ・ニシターナは頭を抱え呻き始めた。喧嘩を打った相手を間違えたことに気が付いたのだろう。
「待ってください!」
女性自衛官につられ収容室4にまさに入れられようとしていた時イミ・レスイは俺に向かってそう言った。
女性自衛官は部屋に入れようとしていたが俺はしばし考え。
「入れるのを少し待ってくれ」
「ですが司令!」
「大丈夫だ…彼女はなにも企んでいない」
俺が女性自衛官をそう説得すると不満を見せながらも入れるのをやめてくれた。
そして俺はイミ・レスイの前に立つ。
「なんだ?」
「私はブルエスト王国の植民地にいた奴隷でした。どうか…植民地で奴隷として扱われている人たちを助けてください!」
「奴隷…ブルエスト王国は昔の列強みたいだな。つまり君は」
「ええ。秘書とかではないです。ただあいつの性奴隷でした」
「そうか…カウセリングをしておけ。イミ・レスイ、分かった助ける。必ずな」
そう言うと俺は幕僚本部に報告をするために旗艦へと戻っていった。
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「ちっ…奴は失敗したか」
そう言ってブルエスト2世は椅子をものすごい音で蹴った。椅子となっていた裸の女性は悲鳴を立てて倒れた。
がそんなことには目もくれず彼は家臣を呼んだ。
「こいつはダメだ。奴隷としての役目を果たさんガラクタだ。殺せ。転移国の奴らに痛い目を見せてやれ」
そう言うと彼は部屋へと戻っていった。奴隷を弄ぶだけのために…。