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ポーションは苦い

 

 マーレが教えてくれた錬金術を使うために必要な道具を搔き集めて、リラは再び自室に戻ってきた。

 

 集めているうちに本当にこんなありふれた物で錬金術が使えるのか? と不安になるくらいだった。


「あら、お疲れ様。ちゃんと全部揃ったみたいね」

「こんなので本当に錬金術が使える様になるんですか……?」

「ええ、任せなさい」


 自信あり気にマーレは頷いた。


「それじゃあ、早速準備に取り掛かりましょうか。まず持ってきた大鍋を洗ったら、その鍋に八割くらい水を入れてちょうだい」


 こんなので本当にいいのか? という疑問を飲み込んでマーレの言う通りにした。


 何度も水を持って階段を上り下りしたせいで、手がプルプルと震えている。


 それでも錬金術を早くやってみたい一心で、ついに大鍋を水で満たす事ができた。


「……できました!」


 息は上がっているが、休憩はせずに即座にマーレに次に何をすればいいか問うた。


「これで完成です!」


 よくできました、とマーレは拍手をしている。


 一瞬ポカンとしたが、すぐに我に返る。


「絶対嘘だ!」


 さすがにそう何度も騙されはしない。


 ジト目でマーレを見つめる。見れば不服そうな顔でマーレが口を尖らせている。


 しばしの沈黙。


 先に折れたのはマーレだった。


「冗談はこのくらいにして……。ここまでは前準備、これからが本番よ」 


 そう言うと、着ているローブの中から小瓶を取り出した。


 中になにやら砂の様なものが入っているが、リラはそれを見た事がなかった。


 ジッと見ていたのに気が付いたのか、マーレが小瓶を手渡してきた。


「まず水の中に、これを入れます」


「何ですかこれ……キラキラしてて、星みたい!」


 小瓶の中にあったのは砂とも違う角ばった小石だった。


「これは錬金結晶。いくつかの魔力的な素養を持つ鉱石を配合したものよ」

「初めて聞きました」

「錬金結晶自体は売ってないもの。でも材料自体はこの街でも多分揃うわ。ちなみに錬金結晶を調合できて初めて一人前の錬金術師って認められるの」

「へ~……すごいなぁ」

 

改めて錬金結晶をまじまじと見る。リラはそれが確かにいくつかの鉱石が合わさって作られた物だと理解した。ただ、どの鉱石から作られているかは理解できなかった。どうやらリラがまだ見た事のない鉱石が含まれている様だ。


 十分に観察してから、錬金結晶を水の中に投入する。


「錬金結晶を入れたら混ぜ棒を使ってゆっくりとかき混ぜてみて。そしてその時に自分の魔力を注いでいくの」

「魔力……ですか」


 この世界のあらゆる物は魔力を持っている。人間はもちろん動物、植物、鉱石と言った無機物に至るまでほとんど例外はない。


 人間であれば魔力を操る事で魔法を使ったり、身体能力を向上させたりする事ができる。リラも火をつけたりする時など、日常的に魔力を使っている。

 

 だからこそリラは疑問を抱いた。

 

 魔力を水に注いだとしても、魔力は留まる事なくどこかへと流れていく。そんな事をして何の意味があるのか、と。

 

 そんなリラの疑問を察したのか、マーレは「とにかくやってみて」と背中を押した。


「え……? 魔力が留まってる」


 マーレに言われた通りに魔力を注ぐと、魔力は拡散する事無く大鍋の中に留まった。


 それが、先ほど大鍋に投入した錬金結晶の効果だと漠然と理解した。


「そしたらそのまま五分ほど混ぜてみましょうか」


 マーレに従って五分ほど混ぜると、大鍋を満たしていた水の色が虹色に変わった。水の上に油膜が張った時の色みたいだ。


「よし、よくできました」


 夢中で混ぜていたせいで、マーレの声を聞き逃しそうになっていた。


 魔力を少し使いすぎたのか、気怠い疲労感がある。


「お疲れ様、最初は少し疲れたでしょ?」

「はい……こんなに魔力を使ったのは久しぶりです」


 魔法を攻撃手段として使う、例えば冒険者の様な仕事をしていなければ魔力切れを起こす事はほとんどない。リラも魔力切れを起こしたのは魔法が使える様になったのが嬉しくてはしゃぎまわった時以来だった。


「疲れたなら今日はこの辺で終わりにしましょうか?」

「いや、大丈夫です! 私、まだまだ元気ですから!」


 ここまできたのにお預けなんて冗談じゃない。腕をブンブンと振って、まだいけますと全身で伝える。


 するとマーレがポンと手を叩いた。何か思いついた様だ。


「そしたら……これ、飲んでもらおうかな」


 マーレは再び服の中から小瓶を取り出した。今度は緑色の液体が入っている。


「あの……これは?」


 嫌な予感がした。


「ふふ……これはね、魔力ポーションよ!」


 マーレはやはり人の悪い笑みを浮かべている。

 

 もう何回か見てきたから分かる。これはイタズラしようとしている時の顔だ。


「本当に大丈夫なやつですよね⁉」

「私ってばそんなに信用ないのかしら? 大丈夫、ちょっと苦いだけだから」

「やっぱり!」

「でも、錬金術をするためには魔力が必要なのよね。困ったわ~このままじゃ続きはまた今度になっちゃいそう……」

「……分かりました! 飲みます! 飲むから続きを教えてください!」


 ひったくる様にして、魔力ポーションを飲み干した。

 あまりの苦さに半泣きになるリラをマーレは満面の笑みで見守っていた


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