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出会い

 結局新しい露店の中に、リラの興味を引くような物はなかった。それどころか粗悪な物を売りつけるあくどい露店を見つけて、見なければよかった、と後悔すらしていた。


 だからと言ってリラは店主を諫めたり、誰かに告げ口をしたりはしなかった。

 

 例え相手に悪意があって粗悪品を売りつけているのだとしても、目利きを怠って騙される方が悪いというのがこの世界では常識だ。リラはその程度の事が理解できるくらいには大人で、それでも割り切れないくらいには子供だった。

 

 寄り道を終えて頼まれていた買い出しを終えたリラは、装飾品を扱う露店の前に佇む一人の女性を見つけた。穏やかに光る銀髪が印象的な長身の女性はぼんやりと、乱雑に置かれた装飾品を見つめていた。


──綺麗な人だな。


 リラは一瞬その女性に目を奪われていたが、すぐに我に返った。その女性が手に取った腕輪が、露店に並べられている中でも一二を争う粗悪品であったからだ。


 その腕輪は本物の貴金属を散りばめている様に見えるが、実際は樹脂を固めて付けただけの安物だ。それを店主は他の貴金属を扱う装飾品とほとんど変わらない値段で売ろうとしていた。


 見えない所であればいざ知らず、目の前で騙されそうになっている女性を放っておけるほどリラは割り切れていなかった。


 ちょうどいいカモだと思ったのか、お似合いですだの何だの美辞麗句を並べ立てる店主と儚げに微笑む銀髪の女性の間に割り込んだ。


「うわ~、綺麗な腕輪ですね!」


 下から銀髪の女性を覗き込む様に声を掛けると、


「えぇ……そうね」


 と銀髪の女性は曖昧な笑みを浮かべた。後ろでは店主が一瞬不愉快そうな顔をしたが、リラは意に介さずに続ける事にした。


「でも、お姉さんだったらもうちょっと淡い色のアクセサリーの方が似合いそう!」

「そうかしら? でもこのお店においてある物は、どれもハッキリとした色をしているわ……」

「そうだ! なら私が案内しましょうか? 私、この辺の店だったら色々案内できますよ?」


 あくまで自然にこの店から遠ざけようと、リラは出まかせを言った。大体こんな田舎の街、ローゼンにいくつもちゃんとした装飾品を扱う店なんてあるはずがない。探せばあるかもしれないが、そこまで詳しく知っているわけではなかった。


 どうやら客を引き剥がそうとしている事に気が付いたのか、店主は、


「ちょっと、お嬢ちゃん!」


 とリラを注意する。せっかく捕まえた客の手前声を荒げたりはしていなかったが、その声からは明らかに不快感が滲み出ていた。


 さすがにこれ以上は無理だろうな、と察したリラは最後の抵抗として目をくわっと見開いて銀髪の女性に訴えかけた。気づいてくれ~、気づいてくれ~、と念を込めて。


 その顔が可笑しかったのか、銀髪の女性はくすくすと上品に笑う。そしてリラの頭に手を乗せてポンと叩いた。


「ごめんなさい、店主さん。こんなに可愛らしい子からのお誘いを無下にはできないわ。また今度、寄らせてもらうわね」

「……それは、残念です」


 店主は顔をヒクヒクと震わせている。お世辞にもうまく笑えているとは言い難い。どうやらこの店主は感情を隠すのがあまり上手ではないらしい。


「それじゃ、行きましょうか。エスコート、お願いね」

「はい! 任せてください!」

 

 背後からの恨めし気な視線を感じながら、リラは銀髪の女性を連れて露店を後にした。



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