プロローグ
──ずっと探していた、本気で心躍る様な事を。
その日、リラ・ホワイトはいつもの様に買い出しに来ていた。
実家の宿屋【月猫亭】も面している大通りを歩く事数分。辿り着いたのはこの街ローゼンの最南端。そこには多くの旅人が訪れ、両脇には所せましと露店が連なっている。
途切れる事なく聞こえてくるのは客を呼び込む店主の声。ガシャガシャと冒険者の鎧と剣がぶつかって響く金属音。魔法を使った大道芸に興奮している子供の歓声。
その喧騒がリラは好きだった。
自慢の赤髪をなびかせ、跳ねる様に歩くリラを見つけた魚屋の親父が優しい声をひねり出す。
「リラちゃん、今日は買ってかないのかい⁉」
「ごめんね! 今日はお肉がメインなの!」
「そっかぃ! 気ぃつけてな!」
「おじさんも! たくさん売れるといいね!」
リラはニコっと明るい笑顔で手を振って、更に先へと足取り軽く進んでいく。
お目当ての店はすぐそこにあった。肝っ玉という言葉が似合いそうな厳ついおばさんにも、リラは怯む事無く笑顔で尋ねる。
「こんにちは! おばさん」
「あらリラちゃん、こんにちは。家の買い出しかい? 今日も新鮮な野菜、揃ってるよ」
厳ついおばさんが、少し垂れ下がっている頬を更に緩めて微笑んだ。
「うわぁ~、やっぱりこの辺でお野菜買うならここが一番だよ~!」
「リラちゃんは若いのに、いい目利きしてるねぇ。ほら、一番いいやつ持ってきな!」
「へへっ、私目には自信あるんだっ! そしたら、これとこれ……あとこれも!」
リラは迷うことなく野菜の山から、特に新鮮な物を選んで袋に詰める。
「はいよ、いつもありがとね。全部で銅貨八枚、最後の一個はオマケだよ」
「やった! おばさん、ありがとう!」
(これはチョロまかしてお小遣いにしちゃおうかな?)
リラはにんまりと悪戯な笑みを浮かべて、すっかり重くなった籠を背負った。
「え~と、他に買う物はお肉と小麦……あとお塩!」
少し立ち止まって思い出すと、リラは再び歩き出す。
キョロキョロと辺りを見渡すと、リラは見覚えのない露店が増えているのに気が付いた。そう言えば最近、【月猫亭】でも旅の商人らしき宿泊客をよく見かける様な……。
「何か面白い物、ありそうな予感!」
リラは少し、寄り道をする事に決めた。
しばらくはガンガン投降していきますので、「面白い」「続きが気になる」等々思っていただけましたらブックマーク登録をしていただけると励みになります。