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第二話


「【聖盾】から……【炎蹴】っ!

 【幻流】から【重肘】っ!

 【速撃】から【超撃】っ!」


 魔術と武術との融合である『魔闘法』の特訓を繰り返すべく、山籠もりを始めたナッツ少年だったが……


「畜生っ!

 オレの力はこんなものかっ!」


 ……すぐさまその特訓は行き詰ることとなっていた。

 当たり前の話ではあるが……数年間道場に通って身にならなかったものが、半日ほど粘ったところで成果なんて出る訳もない。

 しかも導き教える師もいないのだから、その効率は道場にいた頃よりも遥かに悪くなっている。

 そもそも、魔術と武術の融合と言えば聞こえは良いが、それを実現するためには思うがままに動ける身体能力と、その身体能力に追随するべく魔術を練る魔力と集中力が必要となる、非常に高度な技術をかき集めた芸術にも等しい『闘法』なのだ。

 そして……残念ながらそれらは数日程度の我流の特訓で練り上げられるほど甘いモノではない。

 事実、特訓を始めてから、師より伝えられた型を延々と繰り返しているものの……上達の兆しすら感じ取れない有様だった。

 正直な話……ナッツ自身でさえ、それらの未熟な技の数々では、師を超えるような化け物に通用するとは思えなかった。


「師匠を超えなければっ!

 それほどの技をっ!」


 まず、魔力を盾として敵の攻撃を受け止める【聖盾】。

 脚に炎の魔力を覆って威力を上げる【炎蹴】。

 魔力で幻を造り出し、相手を幻惑させて攻撃を避ける【幻流】。

 重力魔術によって身体を重くして全体重を乗せた肘を叩き込む【重肘】。

 逆に軽量魔術によって身体を軽くして拳の連撃を放つ【速撃】。

 身体強化魔術によって腕力を増強させて拳を叩き付ける【超撃】。

 それらは基礎の六技と呼ばれ、熟練することによって魔術と武術との融合を体感すると言われている。

 他にも上技と呼ばれる【掴爆】【重投】【爪斬】【炎点】……そして未だにナッツ少年が見たこともない奥義を持って、『魔闘法』は完成されている。

 そう道場では習ったのだが……未だに未熟なナッツにとっては全てがただ机上の空論に等しい代物でしかない。

 全てを防ぐはずの【聖盾】は強度も展開速度も足りず、敵の攻撃をまともに防ぐことも出来ないただの脆弱な盾に成り下がり。

 炎の魔力によって相手を蹴散らす【炎蹴】は、魔術の火力と速度が全く両立出来ず、ただの派手な蹴りでしかない。

 幻をもって敵の攻撃を躱す【幻流】に至っては、幻は具現化せず歩法も未熟……とても技と呼べる代物ではない。

 加重した全体重を込めて相手を潰す【重肘】は重心移動が拙い挙句、重力魔術自体は兎も角、そのタイミングを合わない所為で、ちょっと重い肘打ちに過ぎず。

 軽量魔術だけは得意なナッツの【軽撃】は速度だけは師に勝るとも劣らないものの、一撃があまりにも軽過ぎて相手にダメージを与えるには至らず。

 ついでに身体強化魔術は強化率が低い所為で【超撃】は少し強化された拳に過ぎない。

 上技に至っては、魔術だけなら発動出来るものの……武術と融合した途端に集中が切れてしまい、魔術はあっさりと霧散してしまう。

 ……それが、ナッツ少年の実情だった。


「……ちく、しょうっ!

 魔力を練る速度が足りないっ!

 身体能力が足りないっ!

 技の練度が足りないっ!

 技を選ぶ速度が足りないっ!

 そもそもの、才能がないっ!

 クソ爺っ!

 言われなくても分かってるんだよっ、そんなことはっ!」


 少年自身にも己の(つたな)さが分かるのだろう。

 様々な技を繰り出し、それら全てが実用的でないと……己自身の才の無さを理解したところで、ナッツはそうして自分に足りないものを叫びながら、ただ怒りのままに拳を地面へと叩き付ける。

 魔術によって強化されているその拳の一撃は、地面を拳一つ分凹ませただけに過ぎず……師の一撃と比べると十分の一の威力もないだろうソレは、己の力の無さを悔やむ少年にとっては更なる屈辱でしかない。

 そうして、少年が現実という壁を前に歯噛みしていた……その時、だった。


「やぁ、そこで奇妙な踊りをしている少年よ。

 ボクの教えを受けないか?」


 突如としてそんな甲高い……子供のような声が聞こえて来たかと思うと、近くの樹上からヘンテコな妖精が一匹舞い降りてきた。

 ソレは、妖精……なのだろう。

 手のひらに乗るような大きさに、虫の羽根に子供のような身体と、形状的な特徴は紛れもなく妖精そのものだった。

 だけど……ナッツ少年はソレを妖精と素直に認めることが出来なかった。

 何しろ、その妖精擬き……その無邪気が具現化したかのような姿形とは異なり、その顔からは俗っぽい欲望と打算が窺えたからだ。

 言葉を選ばずに言えば、ソレは俗世とは隔離している筈の妖精の癖に、あからさまに『人間臭かった』。


「……何なんだ、お前は?」


 だから、だろう。

 ナッツはその戦力を全く持っていないだろう妖精擬きに対して、全く警戒を解かず、両の拳を構えながらそう尋ねる。

 ……だけど。


「はははっ。

 俺様の名は(ライト)

 武術を志す者の元に現れる、武の妖精というヤツさっ!」


 堂々とそう告げる妖精擬きの言葉によって……あまりにも胡散臭いその言葉に意識を奪われたナッツは、あっさりとその警戒を解いてしまう。


「……武。

 武の妖精?」


「ああ、そうさ。

 山籠もりをする武芸者の元に、極稀に現れる……俺様は、そう噂されている者だ」


 その妖精の言葉は、100人が聞けば99人は「非常に胡散臭い」以外の感想を抱かないだろうほど、何の根拠もない口先三寸としか思えない適当なモノだった。

 何しろ、その妖精擬きの身体は鍛えられた様子もなければ、体幹がしっかりした様子もない……いや、それ以前にそもそも武の妖精なんて存在自体、この城塞都市ガーディナ近郊ですらも噂に上ったこともない。

 要するに……この場において、その妖精擬きの口先三寸を信じる要素なんて、欠片も存在していなかったのだ。


「ならっ!

 ならっ、オレにっ!

 オレにっ、武術の極みをっ、授けてくれっ!」


 それでも……特訓に行き詰まり己の才能の無さに歯噛みしていたナッツ少年は、その言葉を素直に信じ、気付た時にはそう叫んでしまっていた。

 ……そう。

 思い通りにならない現実に追い詰められていた彼は、理性が発する警戒を敢えて放棄し……ただ己が信じたいモノを信じてしまったのだ。


「ふっ、ふふふっ。

 俺様の修業は厳しいぞっ! 

 だが、俺様を信じて付いてきたのならっ!

 貴様を5日で最強にしてやろうっ!」


「し、師匠……は、あのクソ爺だから。

 先生と呼ばせてくださいっ!」


 そうしてナッツ少年は「5日で最強」なんて何の根拠もない言葉に騙され、その妖精擬きを先生と呼ぶこととなるのだった。

 

「受講料はその食料で良い。

 ……転生してここしばらく、何も喰えてなかったんでな」


 騙された少年の唯一の救いは……騙された代価があまり高くなかったこと、だろう。


2020/10/14 21:12投稿時

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