第六話 リーナの目覚め
「ん……んん……あれ……私……」
俺がソフィとの通話を終えて十数分が経過した頃、リーナが目覚めた。
「確か……倒れて……ッ!?」
周囲を見渡していたリーナと目が合った。
「気が付いたか?」
「あ、貴方が助けてくださったんですか?」
「そうだよ」
怯えられなくて良かった。ちょっと不安だったんだが、杞憂だったようだ。
「そうなんだ……あ……コホンッ。……そうなんですの」
……ん?
「お礼を言わせて頂きますわ。私、少しばかり疲れておりまして、あんなところで倒れてしまったんですのね。お恥ずかしいですわ、おほほほほ……」
……うわ、めっちゃ違和感がある。
これ、以前の手紙に書いてあったあれだな。
俺は、ソフィの手紙を思い返した。
『リーナって、無理して貴族っぽい話し方をするから、とっても可愛いんだよ。頑張っているのがとっても伝わってきて、頑張れって応援したくなっちゃう♪』
そう書いてあったのが、これだろう。
いやぁ、だけど……。
「お、おほほほほほっ……ッ!けほけほッ……お、おほほ、お恥ずかしいですわ」
違和感が半端ない。困ったら、とりあえず「おほほ」で誤魔化しているなぁ……。
確かに可愛いんだけれど、こんな状況だから、痛々しさの方が先に立つ。
「あのさ、そんなに無理して貴族言葉を使わなくても良いんだぞ?」
心配になった俺は、そんな風に声を掛けた。
「……ッ!?な、何で無理してるって分かったんですか!?」
「いや、誰がどう見ても無理してるだろ」
「そ、そうですか……?」
「ああ」
「そ、そっかぁ……」
え、何でここでこんな空気に?もしかして、リーナとしては自信があったのか?
「ま、まぁ、大丈夫そうで良かったよ。何か飲み物でも持ってくるな」
俺は、席を立って、部屋を出ようとする。とりあえず、空気を変えようと思ったからだ。
「あ、ちょ、ちょっと待って……」
そんな時、リーナから声が掛かった。
後ろを振り向くと、リーナがベッドに座り、こちらを見つめている。
「その……ありがとうございます、私を助けてくれて……」
「ッ!お、おう、気にするな」
ヤバかったッ!あまりの可愛さに、意識が飛びそうだったッ!
早くここを脱出しなければ、鼻血を出して倒れそうだ。
「え、えっと、飲み物は何が良い?リーナの好きなものを言ってくれ」
「え?そ、それなら、ミル……あれ?」
目の前のリーナが、不思議そうに首を傾げた。
え、どうしたんだ?
俺は、気が付いていなかった。自分が、ミスをしたことに……。
「えっと……私、名前って言いましたっけ?」
「………あ」
二人の間に、微妙な空気が流れたのは、言うまでもない。